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zoom RSS 帝國のバレンタイン。えるむ、たらすじ、kei、ユーラ

<<   作成日時 : 2013/04/18 13:23   >>

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 宰相府の実体は砂漠の中にはない。
 宰相府の実体は0G空間内にある。人間や花園がある表層の九億km彼方を慣性飛行するそれが、宰相府の本体である。

 機械の巣。
 完全に人間を無視して作られた思考飛翔体である。いくつかの空間をぶち抜いて移動するそれは宰相府の自動機械を設計する空飛ぶ設計室であり、自身が無人化された存在でもある。それは安全のために完全に近い隠匿性を与えられており、普段は人間世界に介入すらしない。
 それが、久方ぶりにモーターを動かしていた。空間跳躍し、アンテナを広げ、0.21秒の通信を二〇万回に渡って送信した。アンテナを切り離し、再び空間跳躍する機械の巣。それはちらりと電子の目で遠く青いテラを見て、そのまま全ての興味をなくしたように異空間へ飛び去った。

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 宰相府の自動工場のラインが組み変わった。

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「おー。えるむさんだ」
「元気かな」
 第十四祖国統一工場の人々は急に入った注文にてんてこまいになりながら、バレンタインで届いたお菓子を喜んだ。
 喜びつつも、工場に暇などありはしない。お菓子を食べつつ、作業した。
「しかし、なんでまたこんな古い機材を注文するかな。これ、俺が生まれる前ですよ」
 若手の工員が珍しそうに言った。年かさの工員がちらりと見て
「治具は撤去されてるから、うちでも在庫次第だな。おい、倉庫見てこい。B−4区画だ」
「はい。しかしなんでこんなもの」
「口より手動かすのが満天星の労働者だ。いいからやれ」
 若手はぶつぶつ言いながら、処分を待つ古い部品を積み上げたB−4区画へ向かった。
「なんだよもう、まだニュートン式の反重力装置じゃないか。製造ターン9だぞこれ」
 若手は良い仕事をした。B−4区画からもっとも状態のいい反重力装置一〇〇セットを選び出し、宰相府へ送ったのである。埃を落とし、保存用のグリスを落とし、新品の頃と何一つかわらぬ輝きを取り戻して、反重力装置は運ばれて行った。

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「わんわん!」(たらすじさんだ!)
「わんわんわん!」(お菓子だ!)
「はぐはぐはぐ」(翻訳できず。尻尾振ってるのでおいしいらしい)

 たらすじはしゃがんで犬士たちの相手をしている。
 笑顔で腹をなで、ブラッシングする。犬士に囲まれ、なめられたり乗っかかれたり、体をすりつけられたり、勢いが良すぎる尻尾で叩かれたり、やられたい放題である。

 その横で、火足藩王はうなずいた。これが今生のお別れというように。
 かしこし王犬、じょり丸は深くうなずくとピケのサイドカーに乗った。ゴーグルをつける。
 サイドカーを運転するのは白髪の老人だった。長い髭を揺らし、右の腰には名刀グラムを、左の腰にはアルブスヘイムの住民から贈られた楡の木から切り出した杖を持っている。
 老人は魔法使いの帽子を外して火足に渡した。
「これをあげよう」
「大事にします」
「なに、そんなに大事にせんでいい。生きて帰ってくるからな」
 涼しい顔で迷宮の賢者は言った。魔法のようにベレー帽を取り出し、斜めにかぶった。
「それに、そろそろこれをつけねばと思っていたんだ」
 ウインクし、迷宮の賢者はサイドカーをそっと走らせた。ゴーグルつきじょり丸さまと並んで走っていく。

 火足藩王は魔法使いの帽子をかぶり、顔を隠すようにひさしを動かした。

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 はるかいくつもの世界の先。広い広い森の中。
 数年前の落雷が作った小さな広場からは、星が見える。降り注ぎ、落ちてくるように見える星々。
 エルフ達は車座になり手を合わせて、星辰の門へ祈り捧げた。
 かつて自分達の祖先を救ってくれた人の為に、偉大なる竜たちに、どれだけ悲しみが折り重なろうと、世界を再び蘇らせようとする、その意志に。

 エルフ達が手を差し上げる。
 森の木々が感応し、枝を伸ばし、繁茂した。森の広場が消え、木々が星々に手を伸ばす。
 伸びゆく枝の上にテルと名のつけられたネコリスが一匹、走っていった。

 エルフ達は歌い出した。
 万物に礼を告げる魔法の唄。その歌声は遠く長く響いて、色々な心の中にありがとうの言葉を浮かび上がらせた。
 木々が枝を動かし、歌声が遠くに届くように配慮した。

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 ショーゴはテルの革ジャンを羽織り、荒涼としたニューヤークの夜明けを見た。
 成長した彼に比べ、革ジャンは小さくなっていた。でも、それでも着るのをやめられない。ショーゴは手に持つ銃を下げて夜明けに向かって叫んだ。
 今日も生き残ったと、今日も明日を見たぞと。

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 ハルニレの樹の後ろから、その男はひょっこりと顔を出した。一〇年の時などなんの関係もないように。
 夜中にこっそりゴミ袋を捨てようとした竹内は、顔を凍らせた。いつもこの人は、都合が悪い時を狙ってやってくる。

「やあやあ、久しぶりだね竹内くーん」
 口元だけは博愛主義者のように動かして、岩崎は竹内に抱き付いた。
「うわぁ、でたぁ!」
 もう二七で今は余暇にテニスを趣味にするサラリーマンになったにも関わらず、竹内は叫んだ。高校の時のトラウマが深すぎたのかのしれない。思えばこの悪い先輩のお陰で、昇りたくもないいろんな階段を昇ってしまったものだった。
「出たぁなんて酷いなあ。僕ぁ傷つきやすいんだよ」
「えー。そうですかー」
「そうさ」
 岩崎は深く優しい声で言った。竹内はそれで、心配そうに先輩を見る。しばらく見ないうちに先輩は小さくなっていた。いや、僕が育っただけか。
「先輩ちゃんとご飯とか食べてるんですか。僕たち心配してたんですよ」
「嬉しいねえ。心配されるのは」
 それだけは本当のように、岩崎はしみじみ言った。
 竹内が心配そうに岩崎の体を支える。あれ、こんな細い人だったっけと、ちょっと焦った。自分の顔と比べて、髭の生える余地もないような肌をしている。30前の男にはとても見えない。

 これじゃあまるで……
「はい」
 竹内は思考を中断し、渡された服を見た。折りたたまれた男物の服。
「なんですか、これは」
「その格好じゃ僕と遊びにいけないだろう? そんなこともあろうかと持ってきてたのさ。ああ、あとこれはチョコさ。君あてのね。ユーラくんというんだけど」
「ありがとうございます。昔一緒に遊んだことがありますよ。名前、覚えています」
 竹内はなんとも映画のセットらしい上着に袖を通した。映画のセットに使う衣装にしては妙に使用感がある。あと縫製がしっかりしている。
 匂いを嗅ぐ竹内。
「谷口先輩みたいな匂いがする」
「君は時々超人的なことをやってのけるね」
「なんのことですか?」
「なんでもないさ。さあ、いこう」
「どこに!? 僕、明日会社ですよ」
「僕と会社、どっちが大事だと思っているんだ」
「そりゃ……先輩ですよ」
「だろ?」
 岩崎は心から嬉しそうに笑って言った。竹内は頭を振った。そうだった。この人は無駄に色気がありすぎた。
「あの、大丈夫ですか。結婚とかちゃんとできてますか」
「大丈夫。ちゃんとできてるさ。ゲームだけどね」
 岩崎は綺麗に微笑んだ。その手には詩歌藩国の藩王が自ら鍛えた永遠に燃え続ける指環が輝いている。
「ゲームですか」
「そう、ゲームなんだ。でも心は本当だよ。いこう、竹内くん。物語を終わらせなければ」

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