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<<   作成日時 : 2013/02/19 17:09   >>

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小説アイドレスリターンズ 詩人のみぞ知る世界
夏というのに風は中々暖まらず、どうかすると雪が降りそうな気配ではあった。
天候操作兵器を持つ土場藩国に頼んで気候を変えようかどうかと迷うほどの天候だったが、宮廷の自室にて窓際に立つ星鋼京の藩王伏見は、考えを弄ぶだけでやめにした。実際のところ、重工業と金融で拠って立つ星鋼京にとっては自国のささやかながら農業より、よんたや土場の気候や天候の方が余程重大であり、帝國全土の利益だと彼は思っている。それらを優先した後、土場の藩王KBNはこちらにも声をかけてくるであろう。
微笑む伏見。
テラ領域に帝國辺境領を拡張して60年、ばらばらだった藩はようやくのまとまりを見せつつある。
「侯、来客です」
凛々しい小姓からその言葉をきいて、伏見は微笑みながら佇まいを直した。国内の者なら呼びかけは藩王であってしかるべきである。そうでないということは、来客は海外かつ高位の施政者、具体的には藩王であろう。

「こんな時に誰かな」
わざとらしくそう言う伏見の前で、一陣の風が吹いた。
気付けば伏見の目の前に、旅装も解かぬまま立つ吟遊詩人がいる。
高度なセキュリティや格式にそった担当者の山をかいくぐって来た突然の来客に伏見は驚いたが、すぐにいい笑顔になって笑った。
「詩歌藩王、よくぞここまで」
「すまない。少し貴国の手順を省略させて貰った」
詩人は帽子も取らずにそう言った。言った後で帽子を取り、恭しく頭を下げた。
目を細めて笑う伏見。
「わが国の宮廷にもそれぐらい華麗な挨拶をする者がいればな。いや、今後研究させよう。急いでいるようだが、茶の一杯も飲めぬ訳ではあるまい? 直ぐに用意させよう」
伏見はそう言って合図を送った後、立ったまま窓の外を見た。立ったままなのは詩歌藩王が座る気配を見せなかったからである、宮廷序列では伏見の方が上だったが、伏見は善政を敷く帝國諸国にことのほか丁寧に対応をしていた。
窓の外を見れば、緑深い葉の上に、青い雪が散り始めている。
皇帝の住まいよりは大きく出来ないと遠慮した関係で壮大とは言えぬものの、それがかえって独特の趣を醸し出している庭があった。
「久しぶりだな。この雪は」
不老というよりは遅老の伏見は、静かにそう言った。その肩には長いアイドレスで過ごした時間が雪のように積もっている。
「世界の終わりが近づいている」
そっけなく返す、詩歌。
「一藩王には壮大すぎて想像もつかないね」
伏見は正直にそう言って笑うと、表情を正して立ったままコーヒーを受け取った。
「ゴロネコ藩国のコーヒーだ。なかなか旨いと思う」
「そうしてまた小さな国を助けるのかい」
「貴族の趣味さ。用件はなんだろう」
「よんたにラミアが出た」
「前に聞かせてくれたね。結局詩歌で引き取ったのかい?」
「いや、そのつもりはあったんだけどね、あの地で結婚していたから、そのままさ」
伏見は雪が溶けたかのように微笑んだ。
「そうか、いい話だな。妻に聞かせてやろう」
「表向きには確かにいい話だ」
「どこから見ても、花嫁が幸せならそれでいいと反論したいが、詩人の目からは違うんだろうな」
伏見がそう言うと、詩歌は静かに頷く。
「異形に強い耐性があるよんたでも、異形が出始めて収まる気配がない」
「あそこの国民は確かに、詩歌にはラミアはどれくらいいるのかな」
「我が国にはいないよ。まあ、よんた国ではちょっとした嘘をついたが」
「君らしい素敵な嘘だ。それに、実際いても似合いそうだね」
詩歌は黙った。険しく難しい顔をしている。伏見は皿を片手にコーヒーを飲みながら、言葉の続きを待った。
「ヤオトがひどい。善政アイドレスを出していないところは早晩異形に落ちるようだ」
「善政には強く憧れるが、なんだろう。難しいな。異形は本当に悪いのだろうか、そういう気はする。僕のところで昨日若い貴族がAIと派手に喧嘩してね。僕としては微笑ましく報告を聞いてたんだが」
「海法王と旅をしながら話した感じでは、異形の比率が大きくなると世界間の接続が切れる可能性が高い」
「七つの世界から外れる、か」
「それだけではないかもしれない。その場合は我々第七世界人が手を引けばいいという話ではなくなる」
「妻に逢えないのは残念だが、生き物のあり方を我々が決めるよりはいいと思ってたんだが、そうか。難しいな。また難しくなった。僕たちは今後どうすればいい。どうすれば皆を幸せにできる?」
「まだ少しは時間がある。第七世界時間で10日かそれぐらいは」
「緊急じゃないか」
「そうなんだ」
詩歌はコーヒーを飲み終えると小姓にカップを渡し、帽子をかぶりなおした。
「ぎりぎりまで情報を集める。愛鳴之でも異形が出ている。それを見に行くつもりだ」
「典子さんによろしく。陛下は必ず御守りすると伝えてくれ」
詩歌は頷いた。一陣の風が吹いた。
風の後には伏見の姿しかない。伏見は旨いコーヒーを難しい顔で味わった。

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