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<<   作成日時 : 2013/02/13 09:25   >>

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小説アイドレス リターンズ (6日目) 星鋼京の騎士

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 貴族というものは煩雑ではあっても退屈だ。貴族である私が言うのだから、間違いない。
 その日、私は朝食にゆで卵を食べたかったのだが、料理番に意見しても通らず、我が家のルールでは代々こうなっていると執事を含めた家臣団の説得にあい、最後は引退した父まで出てきて説教大会にあったのだ。貴族たるもの、出てきた食べ物をきちんと食べればそれでよく、それ以上は家中の迷惑だと言う。残すのも駄目だし注文も駄目だ。
 卵だぞ? 朝ゆで卵が食べたいというのがそんなに大騒ぎする問題か?
 この話を、貴族だろうと庶民だろうと一緒くたに教育される初等教育院時代からの友人が聞けば腹を抱えて笑うだろう。私も当事者でなかったら、腹を抱えて笑いたい。貴族なので表立って出来ないのが残念ではあるが。
 子供のころは良かった。子供時代というのは大抵の悪いことが許されたもので、私は友人から服を借りたり服を交換したりして、よんた藩の屋台街まで地下鉄で出かけたものだ。あの時に食べたゆで卵屋はよかった。隠れて醤油味の卵を食べていたのが知られたら、我が家は説教で崩壊していたかもしれないが。

――地上に大隊規模の帝國歩兵。じょん
「こちらでもモニタリングしている。挨拶でもしよう」

 だからそう、貴族にとってI=Dの操縦は義務であり貴重な自由である。操縦とて煩雑なのは違いないが、こちらは退屈と言うものがない。
 空を自由に、飛べる。
 わが愛機、RTRは家臣団の手により完璧な整備状況だ。犬妖精たちの毛艶も完璧だ。
 全身を包み込む鯛焼きのプレートのごときコクピット、身じろぎすら困難なコクピットの中が、一番自由というのは良くできた皮肉ですらある。
 私は背面飛行に入った。星鋼京の貴族趣味の一つの到達点、RTRの全身に施された装飾を眺めていただくにはそちらの方が都合がよかろう。出入りの職人たちも喜ぶというものだ。
 高度を下げ、低空低速をフライバイする。
 兵士たちが目を丸くして上を、我が愛機RTRを見ている。私は微笑んだ。これをもっていつか食べさせてくれたゆで卵の返礼としたい。
 RTRは人型であって飛行機ではない。翼のない機体は低速飛行が極端に難しいものだ。バランスを崩さずまっすぐ飛んで見せるのはそれなりの技量がいる。私はうまくできたことに深く満足の笑みを浮かべると、機体をゆるやかにロールさせて上昇した。
 次は帝國の槍であるRTRの上昇力を存分に見せてやろう。
 そう思って気持よくロケットのスイッチを入れようとしたところ、無粋なI=Dが飛んできた。ケントだ。RTRの前、私の父が現役だったころのI=D。デザインは今見ても無粋ではないのだが、軍務から離れた後、このケントは警察任務についたらしく、白黒で塗られ、肩にパトランプがついていた。
「危険運転です。事情を伺いますので降りることを要請いたします」
 空にいる間、貴族というものは中々指図できないものだ。軍法と貴族法では所管も違う。だから要請だし、事情をうかがうという表現なんだろうが、水をさされた気分で面白くない。
 私は無視して飛び去ろうかと思ったが、我が藩の国民らしくもない警官の顔を見てやろうと、着陸する気になった。我が藩の模範的な警官なら、まず私の行為に敬礼の一つも返してよさそうなものだ。
 手近な着陸の場所として我が家の経営する牧場に降りた。驚かせないよう、ちゃんと馬のいないところに降りている。
 鯛焼きプレートのごときコクピットを解放し、お利口に私を待つジョンとピーターの頭をなでて先に降りる。
おいで、ジョン、ピーターと言うと、二匹はコクピットから抜け出して機体を踏んで飛び、嬉しそうに吠えながら尻尾を振ってなでてなでてと私の体に前脚をかけてきた。
 なでる。顔を近づける。舐められる。我が家の犬妖精は最高だ。

 隣を見る。遅れてケントが着陸してくる。完璧な着地だが完璧すぎて美しくない。私は少し後悔した。中に乗っているパイロットは、美というものを余り解していないように思える。
「降りてきたまえ、事情を聴くのに姿を見せないのは無粋だぞ」
「意味不明です」
「声は中々に美しいが、態度が良くないと言っている」
「良い態度とは?」
「降りて姿を見せることだ」
「物理的に不可能です」
 私は眉をひそめたと思う。思いもよらない回答だった。
「モニターにシートベルト、操縦桿という旧式のコクピットではあったと思うが、降りるのに時間がかかるようなものではないはずだ。それともシートベルトが絡まっているのか」
 ケントのコクピットが開いた。私と二匹の犬妖精は同時にコクピットを見て、首を傾げた。無人だった。
「私はこの機体にインストールされた越前藩国製の電子妖精です」
「なるほど。声を聞いて少々期待したのだが残念だった。だが機械に事情を説明するのはいささか難しい。事は美意識の問題だからね。すまないがあとで警察署長に家にくるように伝えてくれたまえ」
 私はそう言って軽く会釈して家に帰ろうとした。呼び止められる。
「それは差別ですか」
「いや、役割分担だ。この国で働くなら覚えておいたほうがいい。人であれ妖精であれ、役割分担がしっかりしていないと他に迷惑がかかる。例えるなら朝食のようなものだ。料理を作るもの、メニューを考えるもの、素材を納入するもの、それぞれが役割を果たすから、社会はまったきものになる。気まぐれでゆで卵を食べようとかいいだすと、料理を作るものは自らの腕前を疑い、メニューを考えるものは傷つき、素材を納入するものは計画変更を余儀なくされる。不便だと思うかもしれないが、だが少しの不便を全員で分け合うことが良い社会には必要なのだ」
「それは論理迷彩ですか」
「いや、実体験だ」
 私は指を鳴らしてそう言うと、意気揚々とコクピットに戻った。I=Dが旧式機を中心に無人化を進めているのは知っていたが、実際見るのは初めてだった。パイロットとして少しのいらだちがある。悪童元帥や宰相閣下は機械がお好きなようだが、戦いは貴族の権利、戦争で流れる血がなくなれば次に来るのは無慈悲な虐殺だぞと、ご注進申し上げたい。
「意味不明です」
「そうだろうとも。だから人間を使いたまえ。それが役割分担だ」
 機体に戻る。ジョンとピーターが追いかけて座る。鯛焼きの蓋がしまり、装甲が降りる。
 通信が来ている。ケントの中身から送られてきた。数百メガバイトの容量の抗議文のようだ。そのままゴミ箱に捨てようかと思ったが、まあ、開くだけは開こうと考えた。それがいけなかった。開いた瞬間自己解凍して展開し、私の目の前にデザインはさほど悪くもないCGの少女が映し出されたのだ。
「私は認めません。事情聴取を続行します」
「御婦人を否定するのは心から痛み入るが、ここは私とジョンとピーターの城だ。出て行ってくれたまえ」
「インストール済み、除去不能。私は物理スペースを占有していません」
「そういう問題じゃない」
「意味不明です」
「ゆで卵か君は」
「あれはおいしいものだとよんた藩の広報資料では主張しています」
 そうだろうともと言いかけて、私はこの厄介な客をどうあしらうかを考えた。いや、話相手としては面白いのだから、家に帰るまではつきあってもいいのかもしれない。


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