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zoom RSS よんた藩国の野望

<<   作成日時 : 2013/02/08 18:31   >>

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小説 電網適応アイドレス リターンズ (4日目) よんた藩国の野望

 目が覚めると、ひんやりした巨大な尻尾に首を巻かれていた。
 尻尾をなでて、また寝ようとすると頭を預けた鱗がうごめくのが分かった。どうやら二度寝は禁止らしい。それで、シーツを跳ね上げ、ゆっくり起きた。
 嫁は尻尾をカラカラ鳴らしながら笑顔で俺の顔を見ていた。微笑んでいる。
「寝顔を見ていたのか」
「はい。堪能していました」
 嫁はゆっくりと枕になっていた尻尾を動かしながら笑った。笑いさざめきながらブラをつけ、サイズの大きなTシャツを着た。下には何も穿かない。俺の趣味と言うよりも、蛇の下半身に合うズボンはないという理由だった。いや、混沌に占領されたアキハルって国にはそういうものもあるんだろうが、本気で探したことはない。そもそも共和国は恐ろしい。
 嫁は上機嫌で蛇腹を駆使して階段を下り、朝食を作っている。
 歌いながら尻尾を振る姿は愛らしい。思わず後ろから抱きつきたくなる。
「あの、吾平さん?」
「ん?」
「料理……中です」
「分かってる。分かってるんだ」
 唇を這わせる内に尻尾で叩かれた。俺の嫁はナーガだった。神様を嫁にするなんて中々いない。詩歌藩国とかになるとナーガなどは別に珍しくもないらしいが、この国ではたぶん彼女しかいない。
 上気して恥ずかしそうにしながら山盛りの料理を運ぶ嫁がいい。俺はそう、世界で一番幸せに違いない。

(1)
 よんた藩国という藩塀がある。わんわんの玉体を守る諸藩塀の内、別に弱体でもないが強大と言うにはほど遠い、ありていにいって目立つところがない国だ。産業は農業と漁業、ハイ終わり。大きな工場なんかは一つもない。藩王はそんな自らの所領をさして、ど田舎と呼ぶ。別にそれに対して誰も異議申し立てしない。事実だし、それがこの国の気質だった。田舎でいいんだと俺なんかは思う。都会に行ったやつらはまだ結婚出来てないし。
 朝。嫁の感触を思い出しながら歩いて出勤する。出勤と言っても海側へ向かって一〇分歩くだけ。そこにはでかいだけの畑がある。いや、でかいだけで必要十分なんだが。
 天気がいい上に柳の花が風で飛んでいる。花と言うよりは白い繊毛で、それが初夏の大風に揺れると大層な見栄えになる。鼻に入ったら大変だが。斜面に建つ我が家を見ると、白いシーツが揺れていた。嫁は取り込み前に尻尾で繊毛を落とすだろう。

 まだ若い小僧たちが鋤と鍬を持って歩いている。俺を追い越し、にやにや笑いすんな新婚と言い捨て走って行った。指で伸びた鼻の下を戻した。
 馬鹿め、そんなにあわてていると畑仕事に使う体力が減るんだぞと思いつつ、自分もそうだったと思った。あれはもう五年は前か。五年しか経ってないというべきか。
 ジャガイモを掘り起こす、次なる作付のために

 五年前、畑を耕していたら冬眠していた嫁を掘り出した。いや、その頃は嫁ではなかったが、俺としては見た瞬間に土手から転げ落ちるように一方的に恋に落ちた。
 いきなり嫁になってくれは駄目だったが、あきらめたりはしなかった。それで俺の、今がある。
――うちは助かるがどこまで掘ってるんだ。
 隣の畑のじいさんにそう言われて我に返った。ジャガイモを掘りながら嫁の事を考えるのは楽しい。
 昼飯時には嫁が風呂敷いっぱいの二人分の弁当を持って音も立てずに走ってくる。脚はないが走れるのはさすが俺の嫁。それで、畑の横で弁当を食べる。今日は入れてくれたお茶の上に繊毛が踊っていた。それだけで二人で笑った。

(2)
 昔、俺の野望は海に出て漁師になることだった。親父も漁師だったし、弟は今も漁師だが、俺は性来の船酔い体質で、漁師としては撒き餌の役にしか立たなかった。
 それで、農夫になった。職業選択の自由ってやつだ。この国には職業選択の自由がある。農民に向いてないなら漁師、漁師に向いてなかったら農民、どっちも駄目なら漁港で働く手もある。
 今はそう、農夫になってよかったと思っている。漁師だと嫁を掘り起こすことなんてできなかったろう。横でいそいそ茶を入れてくれる嫁を見ていると、これまでの全部の人生が肯定されているような気がしてくる。いい天気だな。
 嫁の日傘に頭を隠して昼寝する。道行く奴らが俺たちの前でよろけていくが、俺は気にしないことにしている。
 目をつぶる。風を感じる。嫁の鱗が冷たくて気持ちがいい。
 俺の野望はいつの日か、嫁の生んだ卵から孵る俺の子に、鍬の持ち方教えることだ。

(3)
 風の向きが変わってから、つまりは涼しくなってから、のんびりジャガイモを収穫する。
 詩歌の詩人が畑の横の道を下りて行っている。祭りの時期でもないのにあいつらの姿を見ると言うのはあまり縁起のいいことじゃない。俺の帝國に良くない事が起きている。たいていはそうだ。
 あいつらこそは帝國の目。世界中に散って皇帝陛下に言上申し上げているに違いないって、皆言ってる。
 もっとも別の可能性もある。俺が嫁を掘り出して数日で、立派な詩人がやってきたもんだ。詩歌では珍しくもないですよ。安心してくださいと言って、去って行ったのを覚えている。アレのおかげで、嫁は異形だ、化け物だと殺されたり追放されたりせずにすんだ。そういう意味では、感謝している。
 それにしても一体何の用だろう。俺が手をとめて見ていると、詩人はつばの広い帽子をずらして微笑んだ。男にしちゃ整っているが、畑仕事には向いてなさそうだ。手には竪琴を一本持っている。
――ここらへんは何もないよ。何もさ。
――昔、ここでナーガを見ました。
 俺は唾を飲み込んだ。俺の嫁を詩歌に奪い返しに来たんじゃないだろうなと、ちらりと思った。元の場所に戻す方がいいんじゃないかと長老たちが言っていたのを思い出す。俺は手に持った鋤に力を込めた。
――ふと思い立って来ました。ナーガは幸せにやっていますか。
――お、おう。もちろんだ。
 何かを察したか、嫁が家から顔を出して俺を見ている。お玉を持ったまま走って降りてきた。バカ、詩人の目につくようなことするなと思いながら、かばうように立った。

――幸せですか。
 嫁はいきなりそう言われた後、こわばりながら笑った。
「今日は吾平さんの寝顔を見ました」
「ばか、そんな恥ずかしいこと」
 俺が言う間に詩人はうなずいて歩きだした。
「それはよかった。では」
 詩人は綺麗な音楽を鳴らしながらさっていった。まったく怖い思いをさせやがる。
 気づけば嫁は俺にしがみついている。それで俺は大きく息を吐いた。
「大丈夫。お前はどこにもやらない」
「うん」
 嫁が小さく震えている。俺は鋤もそのままに、嫁を抱えて家に帰った。尻尾が地面に落ちないようにがんばった。

(4)
 数日で藩王から布告が出た。国民軍が招集されるらしい。詩人はやっぱり悪いことを連れてきたようだ。
 じいさんたちにきいてもいまだかつて農繁期に国民軍が招集されたことはなかったから、こいつはそう、俺の藩くらいどうなっても仕方ないくらいの事態になっているんだろう。俺の帝國の一大事だ。嫁の帝國の一大事でもある。
 俺たちは鋤の代わりにつるぎ替わりのレーザーガンを取った。晋陽を着て倉庫で寝ていたピケを出した。普段から綺麗に磨いていて、これなら敵もまぶしかろうよと整備のじいさんは請け合った。
 昼前には政庁城の大広間に行った。皇帝陛下の肖像画の前で俺たちは祈り、帝國の誇りを肩に乗せた。ヘルメットをかぶって、立派な帝國兵士の完成だ。
 整列して歩いて地下鉄に乗り、まだ行ったことのない大都邑の星鋼京へ行く。
 見送りの列に並んだ嫁が泣きそうな顔をしている。俺はあいつが卵を産んでくれたらなあとそう思った。
 それが俺の野望になった。

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