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<<   作成日時 : 2013/02/07 18:29   >>

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(4)
 キノウツンより遠く離れた南の地に、キノウツンと同じ砂漠の国がある。一名を宰相府という。
 キノウツンが死者の都であるように、この国もまた人間のための国ではない。
 ここは、今も法的にはわんわん帝國宰相の個人的な屋敷と付属する花園である。人間は花の咲く場所を避けて勝手に生きている部外者でしかなかった。
 にも関わらず宰相府は、帝國最大の人口を抱えている。理由は簡単で、部外者には一切の税金も賦役もないためであった。
 宰相府の存在が帝國全体の治安や税金にどれだけマイナスを与えたか土場藩国などで良く試算されては発表されたが、当の宰相府は完全に無視していた。住民と同じく、何の興味もないようであった。

 砂漠の中の花園。あり得ないもの、そしてつれないものの意。宰相府の名と権勢をさけて使われる帝國議会の隠語の一つである。
 その砂漠の中の花園でため息ひとつ目を覚ました老婆がいる。名をヒルデガルドという。
 真っ白な大理石で作られた家の中で目を覚まし、夜着の上から布を身に巻いて遠い北の空を見た。頭を振った。
 夢見の技と力を使って助言を送ったものの、男はまったくだらしない。
 そして背後に控える花園の機械達に告げた。手伝うようにと。機械は信号を送った。

 機械の信号は帝國を周遊する無人航空機群を経由して高軌道の衛星たちに伝わった。衛星は少しだけ軌道を遷移して、続いて高度に暗号化された指令をキノウツンに送った。
 常人には見えぬ電波を目にして動きだしたのは騒がしい海辺の街でメイド喫茶に入り浸っていた半機械人達である。電波が見える方の目を動かして即座に暗号解析した。
「こりゃあ本当か。ターニの旦那が苦戦するなんて想像もつかねえがな」
 半機械人の一人、ムラマサ3のサコンが口にした。手を伸ばし、手先に電磁力を発生させて立てかけた鉄刀を引き寄せた。
「また毒ガスでも使われたんじゃねえか。さもなきゃあれだ。魔法だ」
 同じく立ち上がったムラマサ3のウザエモンが飛び出す左手を再セットしながら答えた。サコンと同じく、電波を見たようであった。
「ちげえねえ、さもなきゃ服をなくしたとかだな」
「褌の一個でも買って持っていくか」
「おお」
「みやげ物屋にあったな。赤いの白いの金色もあった気がするが」
「金色だろそこは」
「だよなあ」
 二人はげらげら笑って勘定を払うと、行ってらっしゃいませご主人様と声をかけられながら夜の街を北に走った。この二人は人権を喪失して久しいが、今だ人間風の生きざまにこだわっていた。
 かつて遺伝子にも手を入れた戦闘種族だったムラマサは、今キノウツンにはほとんど生き残っていない。倦まれ、毒を撒かれて、あるいは戦場で使い捨てにされて死んだが、それ以上にこうしてより強さをもとめて機械化し、人権を喪失したケースが多かった。人権を喪失して彼らは自由を得た。もはや誰にもとがめられず、殺し合いをし、己を改良することができた。人間的な悲しみなどそこにはない。人間には理解できない、はてのない喜びだけがある。
 彼らの多くは意識も捨て、砂漠の中の花園、彼らを正しく機械として存分に使い潰す戦争狂の国に仕えていた。
 それら多数派に比べて、サコンやウザエモンは風変わりなムラマサ3である。少数派とはいえ人権喪失組に暗さはない。彼らは自らのハードコピーを数千もつくり、いつかまたはじまるであろう戦いに必要な数を備えてもいた。
 途中、歓楽街の入り口にて的を射た矢の模様が入った褌を買い、砂漠を走る。

 予想通り全裸のターニがあわてて走ってきていた。
「ああやっぱり」
サコンは機械音で言った。彼らの棒読みである。
「旦那。ほらよ」
ウザエモンがロケットパンチで褌をターニに届けた。おお、すまんなと褌を巻きながらターニは礼を言った。
「旦那はハードコピー作れねえ旧式なんだから早く子種ばらまくべきだな」
「ちげえねえ」
 ウザエモンとサコンはそう言って笑った。ターニは頭をかいた。
「しかし旦那はまた裸かか、今度はなんで」
「砂風呂に入っていたら服がなくなっていた」
「旦那の小汚い服を持っていくなんざ、変態にちげえねえ」
「褌の勘定はいくらだ」
「おごりでいいよ。代わりに今度また殺しあおうや」
 機械のよさそうな顔でサコンとウザエモンは言った。
「俺は殺しはすかん」
 憮然と言うターニに、歯を見せて笑う二人。
「おお、俺ら壊れたら修理するだけだって、わはは。遠慮なんかいらねえよ」

(5)
 ターニは街に戻ったところで公然わいせつの罪でしょっ引かれて行った。褌姿ならまだしも、褌の上に当たり矢のマークはいかにも品格を欠くように思われたのである。
 ムラマサ3の二人が腹を抱えて笑う中、ターニは憮然として法の司祭たちに連れて行かれていった。その姿をメイドの多くが情熱的な目で見ている。確かに連れ込み宿あたりでは夜の奉仕隊を喜ばせそうな姿ではあった。
「ああ、笑った笑った」
「まったくだ。涙でるかと思ったぜ」
「これからどうするよ。殺しあうか」
「それもいいが、不浄なもの見たんで死ぬのもなんだな。聖母さまでもおがんで汚れ落とすか」
「ちげえねえ」
 二人は走り、船橋家なる家に走った。聖母と言う割にたいしたことのない家である。
 二人は遠くから窓際を見た。魚を焼くような煙が昇っていた。あの家はいまだ換気扇の修理が出来ていないらしい。
 子供たちにやさしくお話をしながら、船橋空歌という女がフライパンを持って微笑んでいる。窓の外で魚の煙を飛ばすらしい。
 ウザエモンとサコンはその姿を見て、人権喪失組とは思えぬ微笑みを浮かべた。
 顔があう。空歌は怖いのか抱きついてきた子供を抱きあげ、困ったように笑いながら頭を下げる。二人は全力でお互いを肘で押し合いながら、顔を崩して頭をさげ、逃げるように走って行った。
 あれこそは聖母、国母とされる船橋家の嫁であった。至らぬをこえて嫁どころか女や人の場所に届いてない残念ななにかからはじまり、船橋鷹大という伝説的な凡夫の周囲を感動させる努力でいまや立派な良妻賢母になっていた人物である。ムラマサたちの多くはあの人物を見て、人はああも変ることができるのだと尊敬し、敬っていた。

「ありゃあ俺に笑ったんだぜ」
サコンは言った。
「いや、0.7mm秒差で俺の方を注意してたね」
ウザエモンは返した。二人は果たし合いの約束をしながら大いに笑い、キノウツンの夜に消えていった。

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