バレンタイン・公僕の警部

公僕の警部

 雪だ。青い雪が、静かに街に降っている。
 それが夢であると分かっていても、上を見ることを抑えられなかった。

 俺は、あんたみたいになりたい。
 ただのテルは、夢の中でいつもそう願っていた。悲しい事が雪のように肩に降り積もる、そんな夜には。
 親が金に目が眩んで俺を引き取った。引き取ったら俺を持て余した。持て余すくらいなら、俺はただのテルでいい。あんたたちの名字も、名前もいりはしない。

 夢は混乱している。あの日は晴れていたはずなのに、夢の中では青い雪の中を走っている。
 肩に積もった悲しいことを払うように、彼はいつも革のジャンパーを着ていた。バイクに乗っているから、だけではない。そのジャンパーも、今はない。ジャンパーは友人にやってしまった。

 ここは寒い。テルはそう思う。そう思う次には、俺は、あんたみたいになりたいと、言った。

 あんたは凄いやつだ。
 この世のどんな奴よりも冷静で、諦めることも心折れることもない、絶望の天敵。ただ人を助け続けるだけの存在……公僕。
 大抵の人間より丈夫な身体、ほとんどの人間より高い知能指数、周囲が愚かに見えて仕方ないが、自分が解決出来ることはほとんどない、そんな年齢。
 そんなデザインド・テルが生まれて始めて見つけた目標、尊敬すべき人物。最初はただの遊びに付き合っているつもりだった。
いつから遊びが本気になったのか。何で俺にダチができた?

意識がはっきりしてくる。頬を叩かれていた。
「あんたは」
「間に合ったな」
ヲタポンはそう言って妻の手作りチョコを噛みながら笑った。
「お前にチョコを届けにきたぞ。ミルクチョコと、他にもあるぞ」
 テルはゆっくり起き上がる。自分にも効く強い麻酔が使われているようだ。テルは深呼吸する。麻酔が身体の中で高速に分解されている。彼はそんな風にデザインされていた。
「あんたは、どこまで本当で、本気なんだ」
「全部だ。小山輝久くん。俺に冗談はない」
 ヲタポンはそう、高らかに言った。
 テルは周囲を見る。手術室か。病院で俺を助けるとはどういうことだとテルは思ったが、不意に笑みがでた。
「そうか。あんたは、どこか警部に似てる」
「俺に似せて作ったのだ。だがそんな事はどうでもいい。典子のことは帝國にまかせ、脱出するぞ」
 テルはのろのろと起き上がる。あいにく折れた脚は、まだ回復していない。肩を借りて、それで片足で歩いた。
「俺は死んでも構わないと思っていた」
「そうはさせん」
「何故だ?」
 テルが尋ねると、ヲタポンは前を見ながら言った。
「人が人を助けようとする時、正義を守ろうとする時、邪なるものや邪悪なものと戦う時、この世の悪しき企みのことごとくと戦う時、たとえ血反吐を吐こうとそれをなそうとする時、全てに理由があるとは思うなよ。この世には、ただそうあれと思って無限の苦労ができる者がいる」
「警部のようだ」
「警部もそうあれと、建造したのだ。理由は聞くな。それもまた、同じ事。ただそっちの方が好ましいと思っていただけだ」
「分かった。もう、二度と聞かない」
 テルはそう言って歩き出した。余り寒くはないので、ジャンパーはいらないと思った。

「俺は、ただそうあれと思って、苦労が出来る俺になる」
「その意気だ。大変だが、まずは生き残ろう。敵は航空戦力まで出してきている」

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