小説アイドレス GENZーBの1日。

小説アイドレス

GENZーBの1日。

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「キーング、キーング、キングGENZゥ、メタルーオーバーマン、キーングGENZー。パパーパーパーヤ、パパーパーパーヤ……」

明らかに危険な歌を歌いながら王宮の廊下に姿を見せたのは、GENZと言う、男性型アンドロイドである。

元は人間で、脳に至るまで体を自国製品に置き換えた、個人としては最も高額な身体を持つ鋼の国の王である。

もっとも、こんな歌を歌うようだから、性能というか、脅威度もたかが知れているという説もある。
実際がどうかは、周囲の人間に訊いても、はっきりしない。

一つわかるのはこの人物、歩く際にいちいち決めポーズを決めながら歩くことである。だからと言って格好良くは見えないのは、人徳というか、機徳の無さのなせる技だろう。

この日もGENZは歌いながら、決めポーズをきめて歩いている。
故郷である無名騎士藩程では無いにせよ、この地、FEGの陽射しは強い。常識的な人間は陽射しを避けて運動も控えるものだが、機械の体には関係ない。日陰から出てきたその姿は不気味である。

さして長い距離を歩いたわけではない。曲にして一曲目、ポーズにして5つ目が終わる前に、横から呼び止められた。

「ええい、やめーい」

手を伸ばして呼び止めた人物はこの機械が、肉の塊だった頃からの親友だった。名を、猫野和錆という。

GENZ ーいい覚悟だなあ。俺そういう歌を歌ってて芝村さんに殺された奴を知ってるぞーと、和錆は、言う。

GENZ は、いや待て、俺は、ただ、音楽を再生しながら歩いているだけだと反論した。

それを聞いて、難しい顔をした後おもむろにGENZの首を締める和錆。
「いいかー、よくきけぇ、GENZーお前が言っているのは屁理屈だー、屁理屈を言っていると死ぬぞー。俺が殺してやるー」

GENZは目と言うかカメラを動かした。
「医者なのに壊してどうする。いいか、ワサビーヌ、よく聞け、今大方のパソコンや携帯には音楽再生機能がついているだろう」
「ああ、それで?」
「俺にも付いているわけだ」
「ほほー、最後まで聞いてやろう。その後おもむろに死ね」
「俺の場合、音楽を再生すると口から出る。別にスピーカーを追加してもいいが口の方に統一しても十分だと判断したわけだ」
「それで?」
「俺は再生していただけだ。歌っていた訳じゃない」
うなずいた後、盛大に首を絞める和錆。
「口からおまえの声で曲が流れていたらそれは歌っていると言うんだよ!」
「俺の口から別の人の声が聞こえたら嫌だろう。能登まみこの声とか」
「死ね、壊れろ、もげろ、GENZ、お前は俺の聖域に足を踏み入れた」
「いいや死なないね。俺にはまだやり残したことがある」
「なんた、聞いてやろう。なんなら俺が代わりにやってやる」

二人は同時に顔をあげた。同じ方を見た。
歩いてくる人物を見たからである。

「相変わらず、仲がいいのね」
そう言って第三の乱入者登場である。GENZと和錆の仲が良過ぎて話が一歩も前に進まないから登場したと言うよりも、単に呼びに来ただけと言う、やる気の薄さがその表情から垣間見える。

具体的には、GENZと和錆の会話に引いている。まあ、そう言うのが好きでなければ引くような雰囲気が二人にはある。

少し茶色の髪をソバージュにした、目つきが悪い女性である。無論、目つきが悪いのはGENZと和錆のくんずほぐれつを昼間から見てしまったせいで、彼女自身のせいではない。

「あ、由加里さん」
和錆はGENZの首を締めながら言った。
「おお、マイジュテーム」
GENZは首を回転させながら言った。

ため息をつく、由加里。
「バカなこと言い合ってないで急いで。大統領がお待ちよ」
「イエッサー」
GENZは隠し腕を使って敬礼した。

「済みません、こいつが朝からバグってて」
頭を下げる和錆。

「いやいいけどね、今更あんた達がデキてたとしても」
お手上げ、かのように方をすくめる由加里。こう見えてこの人物、GENZの正妻である。

「のおお、気持ちが悪いこといわないでください。俺は月子さん一筋ですっ。ラブです」
和錆はショックを受けたようにそう言った後、お前のせいだGENZと、一層寄り添って首をしめた。

「はいはい。じゃあ、旦那借りていくから」
「どうぞどうぞ、GENZー命拾いしたなー」
「ヘヘヘ」

和錆を置いて由加里とGENZは連れ立って歩いた。
GENZは音を切って決めポーズを取りながら歩いている。花見で見る事が出来る海法暗黒舞踏連舞である。

「で、本当に音楽再生だったの?」
「もちろん冗談です」
「そ」

由加里は前髪を指でくるくる巻きながらそう言ってため息をついた。

「友達からかうのもいい加減にしないと」
「すみません」

素直に謝るGENZ。この人物が屁理屈な言い訳しないで謝る相手など、この正妻くらいしかないのだが、正妻は正妻で実は微妙にヤキモチを焼いていたりする。
たまに自分だけのけ者にされている気分になるのだった。女心は難しいのである。

「もう一つの世界の方の情報収集は進んでるの?」

唐突に、由加里は話題を変えた。微妙にダメージを蓄積しつつ、正妻なのに多少のことでヤキモチをやくなどとんでもないと、思っている節がある。

「過去のうまくいってない我々のようです」
GENZは真顔で返す。無論、正妻の内心など想像ついていない。
この人物がどこをどう間違って奥さん(個人ACE)獲得したかは一つの盛大な物語がある。

「うまくいってないって、どの辺が?」
「向こうのGENZは由加里さんとうまく行ってません」
「それだけ? 他には」
「それでもう十分だと思いますが」

由加里は前髪を指でくるくる巻きながら顔を赤らめた。下を向く。

「何言ってるのよ。バカね」
「俺は本気で言っています」
「わかっています」

口を尖らせ、顔を赤らめて言う由加里。

「なんでうまく行かないのかしら。まあ、その、どの世界でもこう言う関係でもおかしくないじゃない?私たち」

さらりとのろける由加里。本人はそう言うつもりではない。
唯一その言を聞いていた相手も、そうは思っていなかった。

GENZは口を開く。
「多分、俺が悪いんだと思います。優柔不断な時期もありましたから」
「あら、私が悪いのかも知れないわよ。素直じゃない時が長かったから」

GENZは由加里を見た。由加里は前髪を巻きつけた指を解いて一歩GENZに妥協した。

「GENZー、すまん。忘れ物だ。さっき首しめた時お前の部品がなんか脱落してた」

手を振って現れる和錆。
ニ歩GENZから離れる由加里。そっぽ向く。

「どぞ、好きなだけ話してきたら?」

GENZは悶絶し、和錆の首を締め上げる。
「ワサビーヌ、今日の俺は壊れた首しめマシーンだ。お前が絶息するまで俺の手は止まらない」
「なんだよ。脱落するほうがおかしいだろ」

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