パート22

 鍋の国。夜。

 もう父親になってしまったトラオは、かつての残滓を瞳に張り付けて、不意に大気の揺らぎを見た。

「どうしたの?」

さすがに男の子4人はきついというか、もはや子育て以外は何も出来ない藤村早紀乃は、産後太りなんかないわーと、本人が言うほど痩せた顔で、トラオを見た。

暴れる4人の子供を抱いて自分を見る早紀乃を見て、トラオは微笑んだ。

自分の戦いは、もう終わっている。妖精も、物を話すペンギンも、ダガーを使う男も、よけ作家も遠い。

今はただ、彼らの無事を祈るばかりだ。
それに自分には大切な仕事がある。

「家族を守らないとね」
「そうそう」

ただびとである早紀乃は笑うと、二人の子供をトラオにおしつけた。
トラオはあやしはじめる。暴れる潮と三和の手はまるまるとしていて、自分の痩せぎすな指とはずいぶん違った。

 不意に涙がこぼれて、トラオは顔を子供たちにうずめた。

「昔、お父さんは妖精が見えたんだよ」
そしてそれだけを言って、大事そうに子供を抱きしめた。

/*/

 是空砲が動いている。

 是空砲が光を放った。

FEGの火澄は空が明るくなったのを見たが、それ以上に、大気が震えたり、音がしないのに驚いていた。

次々と光をあげる、是空砲。

見れば通りに続々と国民が出ており。遠くに撃たれる是空砲の光を見ていた。

火澄は小助の手を握った。
「なんでしょうね」
「知らん」

相変わらずの小助の言葉に、何故か落ち着く火澄。微笑んだ。

「あのチョコは、口にあったでしょうか」
「まあまあだ」

小助は火澄の頭をなでる。不意に、あちこちから万歳の声があがった。

「是空王万歳、共和国を守れ」

微妙に目を細めてみる小助、鼻で笑って、火澄の手を取り、百万の民が是空を応援する場を離れる。

「勝手なものだな。国民は、この間は文句を言ってたんじゃないのか」
「でもいいことです」

火澄は連れられながら言った。

「誰も応援しないよりは、ずっと」

背を向けたままの小助は、火澄が不安になるほど間を空けた後、不意に口を開いた。

「あいつは、誰にも応援されないでもやるさ」

/*/

 乃亜は、汗をかいていた。
ナニワアームズで突然動きだした是空砲が傾いていたので、国民や怪獣と一緒に押したり引いたりして正しく発射されるように動かしていたのである。

砂漠を見渡す乃亜は思う。これだけの国民が地上に出たのは初めてではなかろうか。
100万人では済まない多くの民がロープを引き、掛け声をあわせて塔を引っ張っていた。

 同じく汗をかいて袖で拭う、ハリーと目があう。笑うハリー。

「いいことだと、思う」
「ありがとう……でも」

乃亜は恥じ入った。今日は失敗ばっかりだ。バレンタインカードの文字も下手だったし、デート思えば汗だくだ。

ハリーは微笑んで乃亜の髪に触れた。

はっとして顔をあげる乃亜。

「この国は良くなる。今日、確信した。愛すべき人間が住んでいるんだ。だから」

生真面目なハリーはそう言った後、しまった愛の言葉をささやくべきだったかと思った。

/*/

なんやなんや、春かと思って勘違いしたわ。

蛇神は是空砲の塔の中で冬眠していたようで、ころころ転がりながら出てきてはそう言って、周囲を笑わせた。

「おっちゃん、大統領ってどんなひとぉ?」
「まあ、掛布やな」

微妙な顔をする子供たち。
蛇はどこ吹く風でいった。

「でも、お前たちが本気で応援したらな、バースも越えるかもしれんで」
「じゃあ、俺、応援する!」
「そうか。ええか。野球で応援が選手に力を与えんとかな、言うよるやつもおるけども、あれは大嘘や。野球の半分は応援やで。夏の阪神を見ぃ、ぼろぼろやないか」
「おー」
「六甲おろしを届けるで。たとえ、どれだけ遠くてもな」

蛇神は神の威厳をたたえてそう言った。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い
ガッツ(がんばれ!)