パート18

//アイドレス

 大阪とヒルデガルドは同時に、顔をあげた。

「これは何?」

ヒルデガルドは生ぬるい風に髪を揺らしながら言った。

「怨念だな」
「大きな戦いが?」
「いや?」

大阪はそこまで言った後、ヒルデガルドを面白そうに見た。
そうか、そもそもバレンタイン自身が後の付け足しだった。ヒルデガルドの時代に、バレンタイン自身がない。

「笑って済ませられる話だといいけれど」
「まあ、だいぶね」


 物陰からチャンスをずっと伺っていた、やひろが走りこんでくる。幼稚園児くらいの見た目。

「おおさか、これ」
「おう、これこれ」

チョコを受け取って大阪はヒルデガルドに見せた。
老眼鏡をかけながら、顔を寄せるヒルデガルド。

「お菓子ね。それが?」
「これを好きな人に贈るのさ。最近はこんな風に友人にも送るんだが」

大阪はやひろの頭をなでた。傷ついた顔のやひろ。
ヒルデガルドはやひろをちらりと見た後、なるほど、恨みもかってしまうのねと、聡く理解した。

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まあ、いいから、送っていってらっしゃいと、ヒルデガルドは大阪にやひろを遅らせた。苦笑して席につく。

「ごめんなさいね。騒がしくて」
「いえいえ」

えるむは笑って、チョコをヒルデガルドに差し出した。
「実は私も、これを差し上げたくて来たんです」
「まあ、”和”ね、知ってるわ。食べるのがもったいないくらい」

ヒルデガルドは笑いながら、えるむを見る。

「他にも贈りたい人がいるのね」
「はい。芝村舞さんと、ミズキ=ミズヤさんにも」

えるむはそこまで言って、迷った後、素直にヒルデガルドに言った。

「どうにか出来ないでしょうか。連絡が全然出来ないと聞いています」
「ホーリーもそう言っていたわね……ふむ」

ヒルデガルドは心を体から解き放ち、遠く、夢の世界を見た。

「プラチナの龍がいるわ。あとは、共和国大統領。ミズキ=ミズヤはすぐ見つかるでしょう」

えるむの顔が明るくなった。ずっと心配していたのだった。

「では、舞さんは」

ヒルデガルドは乙女の姿で、夢の中で左右を見る。

「夜明けの国にいるわ。勇敢な騎士の王が力づくで呼び寄せようとしている」
「大丈夫なんですか?」
「たまには剣も役に立ちます。すぐに騎士の王に手紙をしたためましょう」

ヒルデガルドは老いた体に戻ると、よっこらせと立ちあがって微笑んだ。

「そうだ。矢上麗華という方をご存知?」
「……以前土場にいた方だと」
「そう。彼女の息子が、ずいぶん人間不信でね。なんとかお菓子は届けたのだけど」

ヒルデガルドは苦笑する。

「そういう、好意あるものと言う意味があるなら、もう少し手紙をちゃんとかけばよかったわ」
「大丈夫ですよ。きっと」

さすがにバレンタインを知らないと言う事はないだろう。えるむはそう考えて言った。
七つの世界に共通してそれがあることを、彼女は知っている。

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