パート16

//アイドレス

 不変空という変わった名字の家が、FVBにある。
その家は6畳一間で何もないのが自慢の家で、そこに元ヤガミの小春という男がいる。
小さな恋人がいるのだが、そちらはあまり知られていない。単に宣伝していないだけである。

「ほら、小春、くまチョコだー」
沙子は両手で小春にチョコを押しつけた。

「はいはい。偉い偉い」
「子供扱いだそれは」

沙子はなでられながら小春にそう言った。
小春は考える。

「んじゃ、どうして欲しいんだ?」
「好きなことしていいぞ」
小春に尋ねられて沙子がそう言うと、小春は頭をなでた。

微妙に不機嫌になる沙子。
小春はいい笑顔で2倍頭をなでたあとキスした。

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 巨大な地下ドームの底の大阪球場……ではなく、ナニワアームズ商藩国。
守上藤丸は、ほら、チョコだと言った。
守上の恋人、濡れた髪の暮里は、ん。と言って、にやにや笑った。

守上藤丸は手を振り回してなぐろうとする。軽く抱きとめられたが。
「ありがとうは?」
「言ってほしいのか?」

守上は顔を真っ赤にして目をさまよわせた。小さくうなっずく。

「うなずいたんだから言え!」
「愛してる」

顔を爆発させて倒れる守上。生活ゲーム中に言ってほしかったと思った。

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 久しぶりのニューワールドで、千隼は小動物のように左右を見た。
まだ他の人のようにアイドレスがなじんでおらず、自分なのに自分じゃない感じがする。

まだ会う度胸がなく、ポストにチョコを入れる。
いつか、ちゃんと会いたいとは思うのだが、まだ勇気がない。

ついでに玄霧藩国の国民全部にチョコを贈った。
国民が幸せでいるようにと、心から願った。

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 目も眩むほどの巨大なビル群。
垂直の道、爆発して燃える看板。

璃瀬・プラチナムドラゴンは、プラチナの長い髪と横顔を、燃える看板に照らされていた。
それは暗闇に浮かぶ銀河のようで、どんなものにも侵されぬ、不撓不屈の無敵の心を映していた。

片手だけで、折れ曲がった鉄骨にぶら下がっている璃瀬。下は雲に閉ざされて、何千m落ちれば地上に激突するのかも定かではなかった。


だが。

 璃瀬は笑っている。音もないし、口も動いてはいないけど。
印象的な大きな瞳が、炎の照り返しだけでなく面白そうに揺れている。


 璃瀬・プラチナムドラゴンは口だけを笑わせ、自分自身に送ったチョコを食べた。

「加護」

そして手を離した。

落下する璃瀬。

「やる……すげえ。そんなことやるのは俺だけだと思ったが」
近くの大破した車から身を乗り出した是空は、自分で自分に送ったチョコを食べながらにやりと笑うと、璃瀬を追って落下した。

長い暗闇を、落下する。


 どうでもいいが加護の悪用という点では、海法も是空も璃瀬もかわらんのである。
この種の人種は、あるものは何でも使って本気で勝ちに来る。

その先がどうかは考えない。
勝てば先にすすめるだろう程度にしか考えない。

だからどんな暗闇の先にでも、堂々と落ちていける。ある種の感情の完全欠落が、この人種の共通項だった。一瞬が全部という、刹那の人種である。

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 是空は空中平泳ぎでまっすぐ落ちる璃瀬に並ぶと、バンダナを締め直しながら言った。

「母親に似ている」
「父親には?」

是空は5秒考えた。
「少し」

璃瀬は少しだけ微笑んだ。
是空はダガーを抜きながら言った。

「敵は追ってくると思うが」
「そうでなくちゃ、止まれない」

 璃瀬はパラシュートも何も持ってない。
是空は苦笑した。俺が助けに来るのも計算の内か?

「背中から撃たれるとは?」
「そこは運」
「なるほど」
是空はにやりと笑った。
「いいね、運。俺運だけはあるよ」

是空は心の底から素直にそう言った。運だけを頼みに地獄へ行くことはよくある。
落ちるとは言わない。自分の意思で、その上で勝つつもりだからだ。


 木の葉が風に踊るように、二人は上空、背後から押し寄せる浮遊車に翻弄された。

否。二人は踊っていたのだった。風に舞う木の葉は傷もつかない。

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