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zoom RSS バレンタイン特別企画:キュビズム・ラブ外伝

<<   作成日時 : 2011/02/19 19:40   >>

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キュビズム・ラブ外伝
スーパーマンの母

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「ヲタポン。いるか」
 ノックの真似だけでドアをあけながら、桐田誠志郎は目で友人を捜した。

半分驚き、半分感慨に耽る。

この四年、それなりに入り浸ったアパートの狭い部屋から荷物が運び出され、がらんどうになっていた。

桐田がヲタポンと呼ぶ友人も、同じく感慨に耽っていたようだった。ああ、と生返事したまま、部屋を見渡していた。

「寂しくなるな」
桐田は、しんみりそう言った。

感傷を吹き飛ばすかのように、笑うヲタポン。
「誠志郎、電話で連絡するくらいの知恵を持て」
「あれは嫌いだ」

顔を背ける桐田。苦笑するヲタポン。

「そうもいかん。これからは距離が離れるからな。これまでのように歩いて俺の所には来れんだろう」

 複雑な表情の桐田。実は半年に一回くらいは渡米できるかなとか考えていたのだった。

表情を読んで、苦笑するヲタポン。
手を差し出す。

「俺は大学を離れるが、お前は友人のままだろう?」
「当たり前だ」

差し出された手を叩く桐田。ヲタポンと見つめ合い、二人で大笑いした。

「じゃあ、電話を持て。アメリカには来ないでいい。そのうち戻る」
「時差があるだろう」

桐田としては常識を述べたつもりだったが、ヲタポンはそれも笑い飛ばした。この人物は細い割に、豪快である。

「お前に期待はしていない。昔から俺が寝ていようと風呂にいってようと来てたろう」
「……俺だって成長する」
「五回生になって成長とか他で抜かすなよ。聞いた奴の腰が抜ける」
「……どうせ他に友人もない。誰も聞かない。笑う奴もいない」

ヲタポンは苦笑した。

「お前な……」

桐田の背中を何度か叩いた。

「いじけるなよ」
「いじけてない!」

にらむ桐田。
その顔を見て笑うヲタポン。

「そりゃよかった。安心した。んじゃな」
「まて」

桐田は呼び止めた。すれ違うヲタポン。文字通りの身一つ。コート以外は、鞄すら持っていなかった。

「出国まであんまり時間がない。お前が来るのが遅かった」
「俺を待ってたのか」
「だから」

ヲタポンは親友を見て苦笑した。

「電話、持てと言ったろう」

あわてて、ヲアポンについてくる桐田。
靴を片方づつ、ケンケンしながら履くという離れ業を見せる。

「それについては謝る……いや、お前前日に話せよ、それ位!」
「俺は俺、どこまでも俺。外的要因で普段の生活に変化をもたらすのは好かん」
「頑固なやつだ」
「お前もな」

並んで歩く桐田とヲタポン。

「……時間は何時だ?」
「十九時だ」
「成田までを考えると、まだ時間あると思うが」
「挨拶するのはお前だけじゃない」

「お前、みんなに挨拶して回ってたんじゃないのか」
「当然だ。俺は時間に動かされるのが好かん」

ヲタポンの横顔を見る桐田。

「お前、やっぱり篠田の事が」
「お前がついて来てまで言いたかったことはそれか?……関係ない」

「じゃあなんだ」

桐田はヲタポンに回り込むようにして言った。

「お前には関係ない」
「親友だろ」

ヲタポンは桐田をぞんざいに見た。

「四年たって初めて言ったな。お前」
「お前から聞いたことない」
「そういうこともあるな」
「おいヲタ、俺は真面目に言ってるんだぞ」

ヲタポンは桐田を見た。にらみ合う二人。

「俺も真面目だ」
「何かに動かされるのを嫌うお前が、ぎりぎりでもない時間に動かされているのは何故だ」

ヲタポンは目を伏せた。

「教えればお前が不利になる」
「分かった。不利を呑もう」

桐田は両手を広げて堂々と言った。
苦笑するヲタポン。

「お前、男前だよ。出国前に、ちょっと犯罪をする」
「は?」

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 昨日まで通っていた大学に侵入し、そのまま付属病院に移動、どこに隠してあったか白衣を着て、ヲタポンと桐田は歩いた。

「やばいだろ。ヲタ」
小声の桐田。

「つきあわんでもいいだろう」
「俺は今年から研修だ。いてもおかしくない」

「今後はお前に敵が出来る。たくさんな。いざとなれば俺をかばう気かもしれんが、やめとけ」
「い・や・だ。いいか、ヲタ。俺はお前が本当に悪いことをしはじめたらお前を殴るためについてきてるんだ」

桐田は説教臭く言った。胸に差した真新しいペンを揺らす。
隣を歩き、皮肉そうに笑うヲタポン。

「大丈夫。そんなに悪い事じゃない」
「お前のそれが一番怖いんだ」
「よく分かってるじゃないか」

ヲタポンは緑豊かな中庭をぬけ、最新医療病棟、陰の別名研究病棟に突入。静脈式セキュリティを積層フィルムコートされた静脈のダミーで切り抜け、息をつく間もなく、中に入った。

「お前、将来は何になるつもりなんだ」
あきれて桐田は言った。

「俺は俺だ。ゲームをやってすごすさ。出来ればハイレートが望ましい」
「データでも盗むのか。……たとえば、スーパーマンの」

スーパーマン。病気にかからない上に肉体的容姿的頭脳的に優れた人間。
桐田は研究病棟で作られている予防治療された子供の通称を言った。

技術的に難しい話ではない。個別にはどれもすでに成功していて、あとは医療技術としては、”全部入り”をいつやるかの話ではあったが、人道的に問題があるとして、どこも、世界初をやっていなかった。

が、日本は、と言うよりもこの大学の病院は、それをやった。リスクは高いが、注目度も高い。政治的には危ない橋だが、その分権威の階段をのしあがるには、とてもいい材料だった。

桐田があげたそれを、鼻で笑うヲタポン。

「そんなものに興味はない。人間の強さか遺伝子で決まるものか」
「だが病気にならない、高いIQが約束されているスーパーベビーだぞ」
「だからどうしたんだ」

ヲタポンは笑って相手にしない。
桐田は黙ってヲタポンの後をついて歩いたが、不意に決意した顔で口を開いた。

「じゃあ、ヲタ。お前は人間の強さはなんで決まると思ってるんだ」
「突然だな」

苦笑するヲタポン。下調べは全部出来ているのだろう。五階まで階段を昇り出す。

歩きながら、ヲタポンはいう。

「おそらくは行動だ。スペックが結果を生むのではない。行動が結果を生むんだ。人間は限界の低い肉体と限界の見えない行動の組み合わせで形成されている」

ヲタポンは階段の半ばから追いかけてくる桐田を見た。

「俺は思うんだ。誠志郎。人間としてのハードを改善しても大した性能向上は見込めない。だからそんな物に価値はないと」
「お前は行動に賭けてゲームするんだな」
ヲタポンは目を細めて優しく笑った。

「ついたぞ。ここからは俺の舞台だ。具体的にいうとついてくるな」
「いやだ」
「じゃあしょうがない」


ヲタポンは背伸びして監視カメラの死角からプリンターで出力された絵にすり替えた。流れるように。

「ここからは運ゲーだ。会話時間は15分だな」
「お前は何が目的なんだ」

ヲタポンは桐田を見て、厳かに言った。

「母だ。俺はスーパーマンに興味はないが、その母には興味がある」

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 特別病室は、とても静かな場所だった。
窓が開いていて、心地よい風がカーテンを巻き上げている。

そこに、彼女がいた。
大きなお腹に手を添えて、微笑む彼女が。

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「あら、もう回診の時間?」

スーパーマンの母、スーパーマンを宿した代理母はベッドの上で休んでいた。ヲタポンと桐田を見て、微笑む。


「いいえ」
同じくらい微笑んで言うヲタポン。
桐田を手で封じた。ここから先は、ヲタポンだけの舞台だった。

「あら、じゃあなに?」
「貴方と話をしたくて、参りました」
「インタビュー?」
「いえ、記事にはなりません」
「ほんとにおしゃべりにきたの?」
「ええ」

ヲタポンは請け合った。スーパーマンの母は笑った。
「私はお腹、貸してるだけよ。あなたたちが陰で言ってる、生体プラントってやつね。工場みたいなものよ。生産力低いけど」

スーパーマンの母は、顔をしかめないヲタポンを見て微笑んだ。病院の仲間でないということを確かめたようだった。

「貴方は、どんな人? 人権派には見えないな……この子を嫌ってるようにも見えない。この子を救世主みたいにあつかおうとしてる人にも見えないな」

スーパーマンの母は、ヲタポンに微笑んでそう言った。
ヲタポンは苦笑した。

「自分は、興味本位で来ただけです」
「あら、そうなの?」
「はい」

ヲタポンの言葉に、スーパーマンの母は窓の外を眺めながら微笑んだ。どこか納得したようだった。

「そう……せっかくここまで来たんだから、何でも話してあげたいけど、私は何も知らないの。ごめんね」
「いえ。知りたいことは、自分で決めてきました。貴方は答えを持っています」

スーパーマンの母は考える。

「ここ一週間の天気とか?」
「それも興味はありますが、なぜ、代理母をやろうと?」
「ビジネスよ。お金に困ってたの。前にも一回、代理母はやってたしね。だから、渡りに船」

「違いは、感じませんでしたか」
「子供の顔だって見れないのよ。私は。違いはないわ。前の時と、全然ね」

「達成感がないように思えます」
「お金貰ったら達成感湧くわ」



しばらく黙って、母は目を伏せた。

「今のは嘘。喪失感だけよ。残るのは、お腹貸しただけなのにね」
「それでもなぜ、二度目を?」
「貴方には……男には分からないかも知れないけれど」

スーパーマンの母は、綺麗な顔でヲタポンを見た。

「男に汚されるよりは、無垢な気がしたのよ。身を売るならよりましな方を選んだ。それだけよ。文句ある?」


ヲタポンは頭を振った。
「いいえ。何もありません」

「同情した?」
「いいえ。同情したら、怒られると思いました」
「上出来。歌舞伎町あたりにいったら、あなたスーパーホストになれるわ」
「人を手玉にとりたくはありません」
「そう。残念ね。得意そうなのにね……」
「性格なので」

スーパーマンの母とヲタポンは微笑み合った。
桐田は、体を槍で貫かれたような顔をしている。何も言えない。何か言えるほど、人が出来ていなかった。

桐田はヲタポンを見た。俺の友人は、いつから俺よりずっと遠くを歩いてたんだろう。

「回診まであと5分かな。他に聞きたいことは?」
「聞いても良いか迷っています」
「急いだがいいかもね」

スーパーマンの母は、気楽に言った。それが母の強さかも知れなかった。

「生まれて来る子供は、苦労すると思います」
「でしょうね」
「親の愛も知らないかもしれません」
「そうでしょうね。いないもの」

ヲタポンはうなずいた。

「ええ。義理の母も、おそらくは持つことなく終わるでしょう。もっても、うまく行かないと計算しています」
「それで?」

スーパーマンの母がヲタポンをにらむ。
ヲタポンは口を開いた。

「もし、数年後、その子が不幸になっていると私が判断したら、私は私の全力をあげて、その子にメッセージを伝えます。一言でいいのです。おそらくそれで、がんばれる」

永遠のような三分の後、スーパーマンの母は顔をあげた。

「……それ、私の名前でもいいの?」
「七つの世界にかけて」

桐田はベッドから離れた。聞いてはいけないと、思ったのだった。覚悟のない人間は、そんな大事なことを聞いてはいけない。

二人を隠すようにひらめくカーテンが、遠ざかる桐田誠志郎の心に、長く残った。

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