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<<   作成日時 : 2010/12/16 19:51   >>

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小説アイドレス

                                                      12月12日

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  実際の所、濃紺は世界忍者国でデートをしている。
そしてそれを、後悔しかけていた。


まずもって、どこを見てもロイ像しか無かった。呼ぶ時はもう全然何も考えて無かったのだが、実際に女を呼んだ後で改めて自国を見て、愕然とした。どこに目をやってもロイ像が見える様に、徹底した計算で国が作られていたのである。どうかすると20体くらいロイ像がみえてしまう。忍者コスチュームとか半裸像とかである。

なるほど、子姫がこの国に女を呼ばないで外に出掛ける意味が分かった。

濃紺は鼻水出しながらそう思った後、まあ、女を呼ぶといっても別にそう言うのじゃない、そう、戦友。戦友を呼ぶ様なものだと思う事にした。濃紺、もとは人狼領地、すなわち傭兵の国の出である。

もっとも考えている事を口にしたら、アズマあたりはLOVEよーギャー。とか騒ぐだろう。

濃紺は、違う、違うんだと脳内で誰かに反論して、まだマシなロイ像が控え目に見える場所を綿密にリサーチして女を待った。腕を組んで。傍には帝國製のオンボロ軽自動車がいる。
今の反重力装備を持った満天星藩国の車(らうーるカー)ではない。シーズン1の頃のみすぼらしい帝國標準わんわんカーである。アイドレスの時間で言えば、50年は前の代物だった。ちなみにこの頃の車と言えばトモエリバー運搬車を作っていた関係でFVB製品である。今は造船と宇宙造船できらびやかなイメージのあるFVBも、初期には色々やっているのである。

濃紺はこれに乗って帝國から共和国にやって来ている。捨てるのも忍びないので陸路運転してやって来ている。
今となっては、もうかなりのガタガタなのだがまだ壊れないのでと言っては乗り、壊れたら壊れたで、まだ使えるからと修理して、エンドレスにそれを繰り返して今に至っている。

愛情があるとは、本人認めていないあたり、女に対する態度に通じる所がある。
つまりはこの熊の親戚は、不器用なのだった。

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待った?と言われて、濃紺は目を細めて軍用腕時計を見た。
視認性バッチリなので目を細める必要などまるで無いのだが、癖、である。現実では眼鏡をしているのも関係しているかも知れない。

「時間通りだ。問題ない」

濃紺はそう言って、今日子に言った。笑いもしないのはいつもの事、今日子は鼻で笑って、そ。と言った。

「仕事はいいのか」
「終わってなきゃきてないって」

そうだなと、濃紺は返事した。
仕事に真面目なのは当たり前。それが人としての最低条件だと、濃紺は思っている。
だから別に、不機嫌では無い。 不機嫌そうに見えるのは、いつもそうだと言うだけである。今時は全然使わない表現だが、こう言うのを、木で鼻を括った様な態度、と言う。

今日子も……女の方も、気にしたりしない。濃紺の性格は把握しているようである。
本日の今日子はまきデザインのウエスタンスタイルではなく、ファー沢山のジャンパースタイルである。
なんの事はない。世界忍者国の冬は帝國ほどでないにせよ、寒いのである。遠いFEGの高層ビル群が山脈の様に風を遮り、雪を降らせるからだった。

もっとも世界忍者国は、砂を含んだ風よりは農業に遥かに優しいので、この気候変動に文句をつけた事がない。雪合戦が出来るよねえとは、女藩王結城由羅の言である。

「最近、そっちはどうだ」
濃紺は静かに言った。声が、存外に響いた。

「駄目かもね。嫌われているのかも。ロボットばっかり使われて仕事が全然なくて」
小さな声で弱音を吐く、今日子。かつて帝國最強の剣士として登場したこの女は、今はメッセンジャーや資源掘りなどの仕事が多くなっている。
 宰相府は巨大工廠を背景に使い捨て出来るロボットを重用し、人間を公職や戦場からどんどん遠ざけている。

微笑む今日子。えくぼを作り、落ちかかったマフラーを首に廻した。

「今日は、何?」
「随分遅くなったが、べラーマジュースを奢ってやろうと思ってな」
「……そんな事あったっけ?」

濃紺は頭をかいた。随分前の約束だったが、律儀に守っていたのである。
約束した時、今日子がすごく楽しみにしていた様な気がしたからだった。

 実際の所、今日子が喜んで見せたのは濃紺を喜ばせようと思ってやった、何気ない上に罪も無い演技なだけだったのだが、濃紺は、見事に真意を見破れないで表面だけを深く覚えていた。

男や父親は、大抵こんなものである。女性はお前好きだったろうとかあんまり嬉しく無いものを貰ったら、自分のさりげない仕草が男に何年も消えない思い出を残していると、考えた方が良い。

まあ、いいか、時間がかかり過ぎたからなと、濃紺は考えた。
忘れられた方がよかったかも知れない。覚えていたら怒っているだろう。

「うちの国の名物だ。甘くてうまい。飲むか?」
今日子は笑った。お酒とか勧めないのは、この場合はこの男の生真面目さと優しさと親切だろう。

ーーー寒いけど。

「よし行こう、すぐ行こう」
期せずして、そもジュースを飲む約束をした時と全く同じ様な気持ちと表情で、今日子は明るく言った。
濃紺は一際難しい顔で頷いた。これもまた、濃紺には何年も残る思い出になるに違いない。

 濃紺はこの日、この帝國育ちの娘に異国である共和国を見せたいと思っていた。
そして、この変な像以外は牧歌的で殺風景な農業国が、帝國に似てると言われて、しまったと思った。
確かに北国人の要点を全部満たしそうな光景である。

今日子と言えば、笑っている。彼女としては、似てるねと言うのは、親愛の表現のつもりである。

それから後は、濃紺にとっては散々だった。
旧人狼領地唯一の冬の名物である狼を見せに車を走らせ、あ、これこそ帝國的風景だなと気づいたのである。

それでもなぜか、今日子は上機嫌だった。
二人で並んで、長い事双眼鏡を持って立っていた。


未だ、キスも手をつなぐ事も無い、そんな人生を濃紺は送っている。

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