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zoom RSS 第20回 SIDE−B バッドラックボーイ(1)

<<   作成日時 : 2010/11/03 11:41   >>

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とりかみさまのおはなし

 その昔、エチオピアに未来を見通す瞳を持った女がおりました。
その見るところはことごとく真実となり、それゆえに恐れられ、一人遠ざけられておりました。

 空を飛ぶ鳥たちはこれを哀れみ、伝令としてエチオピアの瞳の住まいに立ち寄ると日々の話を伝えるようにしました。渡り鳥はこうして生まれました。

エチオピアの瞳は鳥たちの来訪を喜び、心配事を語ります。
それは彼女が垣間見た、まだ生まれてもいない、一人の子の未来でした。

鳥たちはいいました。
「心清い人よ。僕達は心震えました。僕の琴弓ならば、あるいは貴方をこの牢から出すことも出来ましょう。だがそれは、貴方の美しさを汚すもの。僕達は貴方のためではなく、貴方の思いのために力をつくしましょう」

鳥は世界中に散らばり、世界中の名前を持つものに助力を要請しました。
それは誰も見たことのことのない子を助ける要請です。
これには人も木々も動物達も空も海も風も山も協力し、一年の四分の一をそれぞれ、一羽のペンギンに預け、固めてこねて冬の宝珠にして、来たる戦いのために貯めることにしました。
そして千年の冬を越えて蓄えられたその力は、ただ一人のために。

ただ一人の心に闇を払う銀の剣を出現させるために使われるでしょう。

それが賢いことなのかどうなのか私には分かりません。
ただ私は思うのです。賢いと言うものに、いかほどの誇る価値があるのかを。

<アルガナ勲章を渡すとき、大統領から口伝で伝えられる物語>
<1999年4月16日>

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 話は、その日、士魂号がはじめて戦火の洗礼を受ける前日まで戻る。

初陣の前日は少々寒い日で、その日に限らず幻獣が良く沸くためか、天気が悪く、日照時間が少ないために今だ桜も咲いていなかった。

 青い髪をおさげにした少女が、寒さに震えてうずくまりながら、公園で商売をはじめたのはそんな日の朝である。

客は到底来そうもなかったが、少女は、それほど頭が良いほうでもなかった。
生きていれば少しくらいは悪いことはあるかも知れないけれど、がんばろうと、常々そう思っていたのである。

公園でテント生活しているこの青い髪の娘を、田辺真紀という。その日は防寒対策で灰色の汚い毛布をポンチョにしてかぶっていた。
何をやってもうまくいかない、長く続かない少女である。

軍のお偉いさんの頭の上に金ダライを落とし、軍を首になってこちら、数々のアルバイトや就職に失敗し、魂を売るつもりで芝村家の万能ねえやとして働いたところ、才能がないと2日で首になった上に、家が火事になってテント生活という有様である。

悲劇を通り越して笑える状況、とも言える。

それでも、田辺は黒縁眼鏡を指で押して思う。がんばろうと。
そして思った。今まで人に使われようとしたからいけなかったんだ。自分で商売をすれば首になりようがない。完璧な計画だ。
 とは言っても、ドジ以外は無芸もいいところである。どうしようかと前夜寝れなくなるまで考え、自分は器用じゃないかと思ってうれしくなり、それでまた眠れずに徹夜してしまったのだった。 したがって今は目がしょぼしょぼである。

いやしかし、田辺は思う。私は器用だ。なんて幸運だろう。
彼女は手先が器用で、なんでも自分で作ることが出来た。……要するに貧乏であった。
弟が遊ぶ道具も、自分が寒いときにつける襟巻きも、自分で作ったのだった。
そう、自分は恵まれている。田辺は嬉しくて、寒い中で微笑んだ。寒い日にもいいことはある、白い息が綺麗だから。

丁度太陽が少し顔を出して、田辺はさらに嬉しくなった。自分の身に降り注ぐささやか光をもって、我が身の幸運を喜んだ。 世界が平和になりますようにと、願った。

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「あ、真紀ちゃんが祈っている」
「いいなあ。わしも祈られたいわい」

草葉の陰から田辺を心配して、幾柱かの小さな厄病神やら厄神が顔を出していた。彼らは面白いように災難に引っかかるこの上得意様を、上得意ということ抜きにしても愛していたのである。
これらの厄神はこぞって協力し、より巨大な災難にあわないように、御柱のほころびを直すことまでしていた。

「真紀ちゃん痩せたねえ」そう言ったのは腐敗の神である。ちょっとすっぱい神という。
「うむ、どうにかせねばなるまい」そう言ったのは風邪の神だった。
「うん」一番年下の厄神である落し物の神コトリは言った。ちょっと泣いた。

 元々公園や河原などの天下の公共地にはあっちこっちからはじかれてきた厄神が多い。厄の神々は愛する不運娘を守るため、火難の神の協力で家を焼き、己らの本領である公園まで導いてきていたのだった。

田辺の実家には、あしきゆめがすぐそばまで近づいていたのである。

公園は厄神の力が強く、あしきゆめだろうと容易には近づけない。さらに言えばこの公園は小さすぎて、大きな災難の神々もやってこれない。
公園に居る間は小さな厄神の数々が一致団結して、この、世界という名の肥溜めの中の小さな奇跡のような心根の清い少女を守ろうとしていたのである。

笑えるを通り過ぎて感動的な話であった。

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「何をやっている。はようこんか」折れた針の神が言った。
田辺真紀を見ていた厄の神々は車座に加わり、作戦会議を再会する。

 見ればへなちょこの字で”がんばって真紀をちゃんを助けよう会議”と小さな看板もあった。その周囲に百八を数える厄神達が揃い、ぼそぼそと会話を行っていたのである。
揃いも揃って小さな厄神が揃う様は、ある意味壮観でもあり、真紀ちゃんの不運、もとい人気のほどをうかがわせた。

そしてその一方で、会議は難航していた。
時々、公園を野良猫が通るたびに散り散りに隠れ、しばらくするとまた戻ってきては会議を再開するので効率はすこぶる悪い上に、小さな厄神では荷の重い話だった。そもそも不運をもたらす神々が人の助けをしようと言う時点で間違っていると言えなくもない。かれらはそれでもあきらめず、かれこれ3日ほどそう話をしていた。

「時間がない。このままでは真紀ちゃんがあしきゆめの供物にされてしまう」
ちょっとすっぱい神が意見をまとめるように言った。

「いっそ大厄の神々に委ねるか?」
風邪の神が腕を組んだ。彼は肺炎の神の使いっ走りであり、他の大手の厄の神々と面識がないわけではなかった。

「駄目だ。大神がどう出るか分からん」
そう言ったのはむこう脛を打つ神である。

「もうわしらではどうにもならんぞ。御柱のほころびが激しすぎる」
最近すっかり弱り気味の疫病神……鼠の神。

「仕方ない」
厄の神々の中でも最年長の貧乏神が言った。常々銭の持ちすぎは健康に悪いと力説する神である。生活習慣病は貧乏ではそもそもかからんのだというのが口癖であった。

「このままではこの娘は守りきれん」貧乏神はそう言った。
「まさか見捨てるなどと言うのではなかろうな」死神が心底嫌そうな顔をした。
「馬鹿を言え、この娘をなくしたらわしらの神生まっくらじゃ。この娘こそわしらの太陽なのじゃ。この娘こそはわしらが千年待ったシオネ・アラダの生まれ代わりにして闇の姫君よ」
「だが手はない」風邪の神。
「いや、手はある。これだけはやりたくなかったが、善なる神々の助けを得るのだ。やつらはお神よしだから、きっとこの娘も守ってくれるに違いない。北にしばらく行ったところに、善き神々の座す砦が出来たと聞く」貧乏神は苦渋の選択を口にした。
「やつらも落ち目だろう」軽い交通事故の神。
「だがわしらより力はある。少なくとも一つの砦を持つほどには」貧乏神。
「正義最後の砦か」嫌な響きに身を震わせて、突風の神ことパンチラ神が言った。
「正義最後の砦だ。そこには偉大なる招き猫(グレーターラッキーキャット)級の神々もよってたかっているそうだ」ゴキブリの神は触覚をざわざわさせた。
「ひぇぇ。わしら殺されるとちゃうか」厄病神の鼠神はひっくりかえる。
「厄病神は猫に食われるぞ」むこう脛を打つ神。
「だが他に手はあるまい。たとえわしらが死んでもだ。……たとえわしらが死んでしまっても、この娘は残る。この優しい心根だけは。反対はあるか」

反対はなかった。

貧乏神は目を開いた。
「では決まりだ。わしらはがんばって正義最後の砦にこの娘を送り届けるのだ」
がんばっては真紀ちゃんが良く使う言葉だった。厄の神々は手をあげてがんばろうと唱和した。

その距離、700m。小さな厄神達にとっては絶望的な長旅であった。


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第20回 SIDE−B バッドラックボーイ
第21回 神々の長い旅
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 とりあえず厄の神々が考えたのは、真紀ちゃんを人間に案内させようという、それだけである。

そして、あらゆる厄が、案内役候補に振りまかれた。

 いつもテント生活を楽しむつぶれたトカゲ顔の男が真紀ちゃん就職に動いたのは、厄の神々の深遠なるちっこい厄のせいであった。実際どの程度きいたのかは本神たちもわかってなかったが、実際はまこと確かに、効果を現していた。

が。

 小厄の神々は、つぶれたトカゲ顔の男……準竜師が電話で善行に話をつけたことまで、分ってはいなかった。なにせ古いのが売りの神々である。電話で話すという概念がないのであった。

それで、がっかりきた。

ある日から準竜師が姿を見せなくなったので、わしら失敗と、がっくり……貧乏神にいたっては膝を折る勢いで消沈したのである。

「いや、まだだ。わしらはまだ、がんばってはおらぬ」
悲壮な顔で、貧乏神はいまだガクガクする膝を杖で支えながら言った。

「がんばるのだ」
元気がない厄の神々がおお、と、ぼそぼそ声をあげた。トカゲ顔の男にだいぶ力をい使ってしまったのだった。

貧乏神は皆の唱和をまって、ゆっくりうなずいた。

「次だ。トカゲは恩知らずだ。次はこう、もっと頭の良さそうなのにしよう」

「人が良さそうなのがええんとちゃうか」
厄病神の鼠神が、意見を言った、神々はそれだと、少し顔を明るくした。
たしかに憎まれっ子世にはばかると言って、厄は性格悪いとかかりにくいのである。

神々は真紀ちゃん人が良すぎて、わしらすっかりちっこくなってたのうと、言いあった。
手短に派手に不運になる真紀ちゃんのお陰で、厄の神々は、このところ随分、真紀ちゃん以外にちょっかいをかけてない。

「もし生き残って真紀ちゃんを正義最後の砦に送ったら、もっと皆に厄を振りまかねばならぬな」
 パンチラ神はしみじみそう言った。
厄病神の鼠神も、落とし物の小神族も、それまでには自分は死んでいるだろうなと思いながら、うなずいて見せた。

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 次に選ばれたのは、雨の中、傘を持ってるにもかかわらず、傘もささず、呆然とふらふら道を歩く、遠坂圭吾だった。

万年床こと湿った布団神が全力で魔力をかけ、引き寄せたのである。

「そろそろおいとますることになりそうです」
万年床の神は微笑んで長老である貧乏神に言った。魔力を使い果たそうとしていた。

貧乏神も微笑んだ。

「よくやってくれたのう。よくやってくれたのう。むこうで、シオネ・アラダによろしく言うてくれんか。わしはまだ顔を合わせるまで、生きてはおらずと」

万年床の神は笑ってうなずいた。

そして万年床の神は消えた。

小厄の神々は涙したが、貧乏神は皆を元気づけるように声をだした。

「まだ終ってはおらぬぞ。あれを公園にいれ、真紀ちゃんに引き合わせるのだ」

そして涙目の神々を見て、優しく言った。
「シオネ・アラダは、わしを助けてくれたよ」
貧乏神は言った。
「わしは助けられたのだ」

そして、静かに言った。
「善き神々がどう言おうがな。あの方こそは闇の娘、暗黒の太陽。あの方ほど、わしらに優しい方もおらなんだ。とりつく人間もなく、死のうとしていたわしを、あの方は自らの身にとりつかせてわしを助けたんじゃ」

貧乏神は思い出に口を開いた。
「あの方が貧乏になるのが悲しくて、悲しくてのう。貧乏神で生まれついたことを、わしは死ぬほど後悔した。そしてせめて健康になってもらおうと、わしはがんばったのじゃ」

手を振り、そして口を開いた。
「わしはな、健康については健康の神それよりも詳しいぞ。そして、いまや粗食がブームじゃ。わしの時代なのじゃ」
負け惜しみもここまでくれば天晴れであると他の神々は思ったが、言っている本神はいたって真面目だった。

「あの方がお隠れになるとき、わしは善き神々が怖くて隠れて泣くしか出来んかった」

真っ白な髭を震わせ貧乏神は言った。一生懸命。

「だが今度は違う。今度のわしは違う。わしは違う。わしはがんばるのだ。わしは、今のわしは卑劣で恩を仇で返すような、三流の厄神ではない」

貧乏神は、杖を地面に突き立て運命を定める火の国の宝剣に己が命を賭けて約定を述べた。

「わしこそは闇の娘を守る暗黒の大司祭、恐るべき闇の神。なにもかもに見捨てられようと、わしの忠節はたがわぬ。今度こそ」

そして本心を言った。
「あのお方の拳の輝きに比べれば、太陽など、怖くもなんともないわい」

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