小説アイドレス0605
ねじくれた笑いに、老人たちは体から湯気をだしたまま顔をあげた。
ひどく長い影を落とした怪人が一人、巨大な月を見上げ笑っている。切れ長の瞳で老人たちを見下ろした。アイシャドウ。
若宮は声を笑い声を聞いて心臓が破れそうになるまで足を早めた。
人の一団が見え、若宮は声もかけずに人々の前に立った。
荒い息のまま背を伸ばし、怪人を見つめる。
クーリンガンだ。クーリンガンだと、背後の人々が絶望的に言う。それは怪人のよく知られた通り名であった。
一際笑い声を高くするクーリンガン。ふわりと舞い降りて若宮の間合いに入った。顔を近づける。
「死人が何を守ろうとしている」
「まだ死んでいない」
「いいえ。あなたは死んでいるわ。遠い昔、誰かに捨てられたときにね」
「俺は昔を覚えていない。だからそれは分からない」
クーリンガンはひどく笑った。楽しそうに。あざけるように。そしてわずかに、あわれむように。
「それは嘘。そして、お前はここで死ぬ」
「死んでもかまわんが」
若宮は己の心臓を意識する。心臓はまだ動き、何も食べていない若宮に力を与え続けていた。
若宮は己がまだ誰かに働けと言われていると確信する。ファイティングポーズをとった。
「死ぬまではやれることをやるまでだ」
「誰にも愛されていないのに?」
若宮はひどく傷ついたが表情を変えることはなかった。
「だが確信はある。おそらくは迷宮の奥深くから、俺に加護を送り続ける者がいる。クーリンガン。ここにいる者を誰も傷つけさせはせんぞ」
クーリンガンは微笑むと、暗黒の剣で若宮を切り裂いた。
若宮は腕を犠牲にしてひるむことも下がることもなく前に進み、そのまま遠くまで音が聞こえるような頭突き、そのまま片腕で首を絞めあげながらわき腹に膝で蹴りあげた。
笑うクーリンガン。頭は陥没し、わき腹からは肋骨の先がでていたが、笑って無視した。一歩下がり、再生する。笑いながら顔を近づけた。
「死人を殺すことはできないわよ」
「そんなことは思っていない」
若宮は言った。静かに。
「だが時間は稼ぐ」
/*/
老人たちは、逃げ出していた。家畜とともに、akiharu国へ走っている。
「死人め、死人だと思って無茶をする」
一人が言った。死人とは若宮のことである。生きようとしない若宮を、鍋の民は侮蔑していた。
「だが助けられた」 老人が言った。
「死者と死者が戦うのはなにか運命だろう」
別の老人が言った。
数名の男が動いた。老人たちに頭を下げた。
「もはや、これまで。我々の旅は終わりました。我々は死人を手伝いたいと思います」
「死ぬぞ」
「いいえ。死人を我が肉で蘇らせ、死人を繋がりに戻します」
数名の男は老人の孫だった。うっすら涙をうかべて老人はうなずいた。
「分かった。さようなら」
「さようなら」
男たちは己の指を噛みきると妻に与え、死人の元へ走った。
ひどく長い影を落とした怪人が一人、巨大な月を見上げ笑っている。切れ長の瞳で老人たちを見下ろした。アイシャドウ。
若宮は声を笑い声を聞いて心臓が破れそうになるまで足を早めた。
人の一団が見え、若宮は声もかけずに人々の前に立った。
荒い息のまま背を伸ばし、怪人を見つめる。
クーリンガンだ。クーリンガンだと、背後の人々が絶望的に言う。それは怪人のよく知られた通り名であった。
一際笑い声を高くするクーリンガン。ふわりと舞い降りて若宮の間合いに入った。顔を近づける。
「死人が何を守ろうとしている」
「まだ死んでいない」
「いいえ。あなたは死んでいるわ。遠い昔、誰かに捨てられたときにね」
「俺は昔を覚えていない。だからそれは分からない」
クーリンガンはひどく笑った。楽しそうに。あざけるように。そしてわずかに、あわれむように。
「それは嘘。そして、お前はここで死ぬ」
「死んでもかまわんが」
若宮は己の心臓を意識する。心臓はまだ動き、何も食べていない若宮に力を与え続けていた。
若宮は己がまだ誰かに働けと言われていると確信する。ファイティングポーズをとった。
「死ぬまではやれることをやるまでだ」
「誰にも愛されていないのに?」
若宮はひどく傷ついたが表情を変えることはなかった。
「だが確信はある。おそらくは迷宮の奥深くから、俺に加護を送り続ける者がいる。クーリンガン。ここにいる者を誰も傷つけさせはせんぞ」
クーリンガンは微笑むと、暗黒の剣で若宮を切り裂いた。
若宮は腕を犠牲にしてひるむことも下がることもなく前に進み、そのまま遠くまで音が聞こえるような頭突き、そのまま片腕で首を絞めあげながらわき腹に膝で蹴りあげた。
笑うクーリンガン。頭は陥没し、わき腹からは肋骨の先がでていたが、笑って無視した。一歩下がり、再生する。笑いながら顔を近づけた。
「死人を殺すことはできないわよ」
「そんなことは思っていない」
若宮は言った。静かに。
「だが時間は稼ぐ」
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老人たちは、逃げ出していた。家畜とともに、akiharu国へ走っている。
「死人め、死人だと思って無茶をする」
一人が言った。死人とは若宮のことである。生きようとしない若宮を、鍋の民は侮蔑していた。
「だが助けられた」 老人が言った。
「死者と死者が戦うのはなにか運命だろう」
別の老人が言った。
数名の男が動いた。老人たちに頭を下げた。
「もはや、これまで。我々の旅は終わりました。我々は死人を手伝いたいと思います」
「死ぬぞ」
「いいえ。死人を我が肉で蘇らせ、死人を繋がりに戻します」
数名の男は老人の孫だった。うっすら涙をうかべて老人はうなずいた。
「分かった。さようなら」
「さようなら」
男たちは己の指を噛みきると妻に与え、死人の元へ走った。