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zoom RSS 小説アイドレス0512

<<   作成日時 : 2009/05/12 18:08   >>

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 食堂というよりは狭い体育館に、卓球台がある。
そこに一人の佐々木哲哉が、……この世界には一人しかいないのだが、腕を組んで難しい顔をしていた。

そこの隣に、元部下改めゲーム内出戻り部下が腕を組んでいる。
横を見て口を開いた。

「十五夜さんというか結城由羅さんどうでした?」
「普通にいい人ぽかったよ」
佐々木は短く返事をした。愁眉は開かず、閉じたままであった。
頭をかく出戻り。

「そりゃよかった」
「……やれやれ、アイドレス、甘くないな。来て早々、謝りっぱなしだ」
佐々木は何度もプレイヤーがつぶやいたことを、はじめて言った。
苦笑する出戻り。
「すみません。でもまあ、でなきゃ大人気なくあなたを配置したりはしませんよ」
「ありがとう」

佐々木、お礼をきちんと言える男である。この点、美点であろう。

「いえいえ」 出戻りのほうはというと、相手が誰でも、このあたりの反応は同じであった。気を使ってはいるのだが、ここは人間力の差であろう。

「どうするかな」考える佐々木。
「誰もがどうするかなと言っています。迷っている」
「筆者君の意見は」
「私に悩みなんかありませんよ」
「知ってるよ。だから意見を聞いている。君はどうする」
「人心の回復ですな。まあここまでは全員の意見が一致していると思います」
「どうやって回復する?」
「そこが皆さんの悩みの種でしょうな。私なら得意分野で勝たせて自信回復させます。誇りは勝利によってのみ、取り戻されるでしょう」
「どうやって勝たせる?」
「優秀な指揮官をあてます」
「今の指揮官は有能ではない?」
「……そもそも日常生活を指揮するなんてことは江戸幕府でもやってません。せいぜい法規制ですな」
「法規制をしない理由は?」
「規制しても人心は回復しません。命題の達成が出来ない以上はやっても意味がありません」
「なるほど。君がやるのか」
「ご命令なら」
「わかった。世論を微妙に軌道修正させながら。日常生活の指揮官をやってください」
「拝命いたします」

佐々木は流れるようにそこまでを指示したあと、難しい笑顔を見せた。

「馬鹿げた任務だなあ」
「命令したあとで言わんでください」
「いや、筆者君らしい、奇天烈な意見だと思うよ」
「論理的にもっとも正しい意見です」
「それは認めるけどね。奇天烈だろ」
「論理的に正しければ間違ってるのは奇天烈に見えるその感性です」
「うんうん。君はよくできてるな。記憶のままの筆者君だ」
「いや今は中身入りですがな」
「暇なの?」
「それくらい深刻なんですよ。今回は」

/*/

 夢の剣という武器がある。

ナイトメアと言う化け物を倒すために使われた最悪の大量破壊兵器で、芥辺境藩国によって使われた後、柘榴という子供の力でその身とともに封じられたが、柘榴救出を計った世界忍者国のソーニャによって柘榴とともに剣が解き放たれ、実体化、共和国の半分を文字通り消滅させ、人心を折りに折った。

 時に、共和国の建て直し計画の時期である。

夢の剣以前から災難続く共和国に対し、ゲームバランスを司る宰相は、ゲームバランスをとるための最強の手札を、ひそかに、そして続々と共和国に送り込みはじめていた。魔術師の塔から騎士団とともにコゼットをFEGに送り、考えられる最高の人選、すなわち佐々木哲哉を世界忍者国が収得する前に前倒しで投入、帝國向けに600億という名目でチャンスボールを買いながら売り上げ資金はるしにゃんに回るようにしつつ、同時に平等の名の下に(お金より使いでのある)600マイルを共和国に援助。実質二重取りさせながら、大規模な公共事業を連発させて人数比にまさる共和国に有利な状況を作ろうとしていた。

そして失敗した。夢の剣による暴走を、防ぐことが出来なかった。遠大な計画だったが、身を結ぶまでは、共和国がもたなかった。

この場合、ソーニャが悪いというよりは、別段にしてさして強いアイドレスをもっていないソーニャでも、一つのミスで簡単に大規模破壊を引き起こせるくらいに共和国の基盤が弱っていたというべきであろう。問題なのはターン10からこちら、立て続けに自爆と不運に見舞われていた共和国の現状そのものにあった。

帝國の弓下、アリアンのペアによって夢の剣自身は封じられたが、共和国の動乱は、続いている。

/*/

 佐々木哲哉とて、完璧ではない。あの超能力とも言える直感でソーニャの元にソーニャとも親交がある出張鳥をジャストタイムで派遣していたが、事件を阻止することはできなかった。それどころか、片棒まで担いだ格好になっている。

 佐々木は出張鳥を謹慎させると自ら前面に出て、世界忍者国藩王、結城由羅に部下の非を詫びている。

 事態は深刻であった。なかでも人心の問題は、大きくなりすぎようとしていた。
こと、ここにいたってゲームバランスを司る宰相は間接制御を諦め、直接的な介入に方針を転換、自ら別名にて共和国に展開して佐々木の指揮下に入った。

/*/

 場面は変わる。

出張鳥はべこへこみんでしばらく使い物にならなかった。
代わりに黄色いジャンパーを着たのは彼と仲のいい酒飲みである。現役復帰した。

当然。課長ヤガミは嫌がった。最悪だと10回言った。
結局今は同じ黄色いジャンパーを着て、並んで歩いている。

「最悪だ」
「そう喜ぶな」

熊本で死ぬほど酒を飲み続けて名のある飲み者を倒したら、倒した相手から二人の名をあげられるだろう。口上はこうだ。俺に勝てたくらいでいい気になるな。この国には二人の伝説がいる、と。その名は、一人はエクセル佐々木、一人はグレート千である。どうでもいいが飲み屋街の綽名ほどひどいものもなかなかない。まるで悪役レスラーである。

 グレート千が最初に向かったのは、FEGから微妙に外れているせいで租税を免れているしっぽり温泉旅館の一つだった。名を、劉慶一郎の小説から、とっている。

出てきたのは女将である。
「あら千ちゃーんひさしぶりー。いらっしゃいまほー」
「ああ、ママとかいて親父さんも元気そうでなによりです」
「太った?」
「わかりやすい反撃ですな」
「んで、この人恋人?」 女としかいいようのない、切り替えの速さで女将は言った。
「いえ、部下ですがなにか。矢上君、なにを凹んでるんだね」
「いや、もう生きてる中で最大の屈辱を今受けた気がしました」
「おほほほほ! いやもう、面白い子ね。ヘッドロック」 女将は矢上をしめあげた。

グレート千は苦笑い。
「あんまりいじめんでください。俺がいじめるので。それはそれとして」
「ぜくうちんなら、もう使い物になんないわよ。もう隅っこで愚痴しかいってないわよ。店のゴミになるから、千ちゃん迎えにきたなら、あの汚いケツ蹴っ飛ばして、つれてってくんない?」

「オマケ、ついてませんか。娘のほう」
「いるわよ。なに、千ちゃんロリコン?」 女将の言葉に、なぜか倒れる矢上。
「いえ。おーい。希望ー」

希望というのは、コゼットの名の一つである。父親ごとに別の名前があるので、ややこしい。

希望は部屋の隅で壁に向かって体育座りでいじいじしており、千は上を見たあと、近寄った。

「いじけても何もでぬぞ」 家の中の言葉であった。イントネーションからして違う言葉。
「正直、自分ならなんとか出来ると思っていました」
体育すわりのまま、もう死にそうな顔で言うコゼット。
ため息をつく千。
「父も悪かった。長いことニューワールドに生きるうちに、いささか傲慢がすぎたのだろうな。許せ」

顔を伏せて顔を振るコゼット。
苦笑する千。

「いじけるところは昔からかわらんな。強くなっても。そこを嬉しくは思うが。そなたはそれだけでは終わらぬ」
「役目がありますものね」
すねた声。

「俺の子は指先一つ、視線一つが動く間は危険でなければならぬ。役目ではない。義務だ」
「危険な人になんかなりたくありません」
「かわいいだけの女でいたいのか?」
「……いえ」

「結構。立て。一つの失敗は一つの成功でかえせ」
「一杯死にました」
「2500万人お前が産めば帳尻はあう。まあ、数字上はな。精神上は3000万産んでそれら全部を幸せにせよ。それで俺は満足する。大抵の者も苦笑いで満足する。それ以外はひねくれ者だ。ほっとくがいい」
「そんなの無理です」
「無理と言うな。不可能と言え。不可能とだけ言うな。不可能には挑戦しろ。我らは不可能の敵、我らは不可能をあざむく一族。どこの世界と時代にあろうともな。分ったか?」
涙目でコゼットは千を見た。
微笑む千。

「優しくはしてやらぬ。それはそなたの恋人の役目だ。希望、地獄を歩け。地獄は寒いが、いじけるよりはいいぞ」

コゼットは涙をごしごし拭くと立ち上がった。
その可愛らしさにもだえる矢上、どうでもいいがこの矢上という者、若かりし頃、8歳のコゼットを見て求婚するという血迷った過去がある。

「いじけている時になぐさめにくる男はつまらん男だ。地獄を散歩していて一緒についてくる男は馬鹿だ。馬鹿を選べ。コゼット」
「馬鹿なら幸せになれますか」
「なれんな。だが不幸でもいいやとは思える。保障する。本当の幸せは、環境や状態ではない。心が誇りをもっていることだ」

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