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zoom RSS 小説アイドレス0526

<<   作成日時 : 2009/05/26 18:19   >>

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 若宮という、男がいる。
ニューワールドに流れ着く前の記憶を失っている、男である。

筋骨たくましいが、瞳はやさしく、笑みを絶やさず、失った記憶を探すこともなく、ただ戦い、死を待っていた。


 この男、鍋の国では蛇蠍のように嫌われている。
理由は、死にたがりのためであり、鍋の国では、それは最大の悪とされた。

鍋の国では、人も猫も、見苦しいまで生に執着し、死ぬまで食べ、死んだら食べられるのが運命である。

そこからはずれる者、はずれようとした者を、失命者という。命を失うに同じであった。すなわち若宮は動き回る死者であり、当然のように死者が動くことは喜ばれず、だから若宮は、孤立している。

鍋の国の人の価値と評価は、何人から「死んだら食わせてくれ」と言われるかで決まる。

ミサヤガミは、国のあらゆる者からそう言われるような人物であったが、対する若宮は0であった。

誰も、失命した者の肉を食いたがりはしない。

何万人もの鍋の国の人々から食べたいと思われているミサヤガミと、誰も見向きもしない、若宮が話をしている。

「いいのですか。自分で」
若宮は王章である鍋を握って、ミサヤガミに尋ねた。

微笑むミサヤガミ。

「生き残って、それを返せ。命令ではない。個人の希望だ」
「……鍋の国らしい物言いですな。は。それでは拝命します」

/*/

 失命者に食べさせるものはない。
当然、シェルターに入れてもらえることもない。

若宮はそんな身分だったが、鍋の国そのものは割と好きで、気に入っていた。

だからこうして、走っている。
若宮は荒野を走っている。鍋の国にまともな交通機関はない。だから、走るしかない。目標とする人々も、走っているだろう。

まこと、鍋の国らしい。

若宮は笑った。優しい笑いだった。
夕日を左手に、走る若宮。寝ずに走ろうと思う。

 若宮は命を賭けて走り出した。

死にたがりが、見苦しいまでに生きようとする人々の為に走っている。

/*/

 太陽は沈み、月がでた。満天の星々が見え、若宮は空に感謝した。足下は明るく、方向もわかる。

 死のうとすれば死のうとするほど、危機になれば危機になるほど、若宮は己の奥から力が沸き上がるのを感じる。

友人などおらぬ若宮である、ここのところは、己の体と、会話することが多かった。

死に瀕して力が沸き上がるということは。俺は本当は死にたくないのだろう。

若宮はずっとそう思っていた。あさましいとも思っていた。
最近は違う。死にたいのは相変わらずだが、力、沸き上がるのは、きっと、まだ自分には役割があるからだと、思っていた。

そうだといいな。若宮は、そう微笑んで思っている。
それは楽しい想像であった。

役割を果たして死のう。若宮は、そう思っている。
その役割を果たすのは、今に違いない。

/*/

 一方、若宮に負けず、走る人々がいる。
鍋の国の人々や、家畜である。

彼らはakiharu国のカマキリの天敵であった。
具体的に言うと見つけると狩り、そして食していた。
一方、カマキリはカマキリで鍋の国の民を食し、この相互損害は互いに互角と、みられていた。もう何年も、そんな狩り合いをしている。

 走る。走る。汗が出る。服を脱ぎ捨て、半裸になる。
夜が来る、走るのをやめず、湯気がでる。

走りながらついてきた家畜を捌き、食らい、akiharu国にたどり着こうとしている。

 先頭を走る老人が、背後の一族郎党を叱咤した。
「急げ、この機をのがせば、もはやカマキリの肉は食えぬぞ」

 誰も彼もが疲れはてていたが、その言葉に励まされた。
最後のカマキリを食わねば、カマキリは本当に死んでしまう。それは、なんとも残念なことであった。

鍋の国では、食をつながりと考える。
万物は死んで食べられてつながり、万物の一つたる人は死んで食べられてつながる。

 カマキリを食わねば、カマキリのつながりが断たれる。
それは本当に、共に世界を分け、生きた者として残念なことだった。だからこの人々は、その肉を食らい、つながり続けようとしている。

「レディ……貴様はわしがどうしても食うてやるぞ」

長いことカマキリを狩り、その数はヒサヤガミに負けず劣らぬ老人は言った。彼にはカマキリへの責任があった。カマキリへの尊敬もあった。
だから一族郎党を連れて、ここまで走ってきている。

甲高い笑い声が聞こえたのはその直後。
若宮が追い着く、少し前であった。

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