小説アイドレス外伝 チョコ爆撃作戦(前編)

それは、地表では50mを越える巨大な怪鳥である。
宇宙では、無理のない最小サイズの高機動兵器である。

地上の爆撃機よりはるかに巨大で、ボディはそれより遙かに剛性が高く、剛性が高いゆえに輸送量は見た目より小さく、ひどく高速でなければ機体の安定性を欠いた。

翼はなく、胴体断面そのものが高速で翼の代わりをするリフティングボディ機である。
飛行機特有の優雅な動きなど端から期待されておらず、ニューワールド唯一の6000m級滑走路でのみ、空へ飛び立つことが出来た。

 それはほぼ無人化されていて、実際人を乗せて飛ぶことはまずない。
コクピットは無人で、無人のまま操縦桿を動かし、照準を動かし、ウェポンセレクターを選択し、トリガーを絞る。その全部は0.01秒。迷いなどない。人間性の欠片も、見つけることは難しい。

 それでもこれは帝國の正義の象徴ではあった。
それは弱い人間が、強い正義を持つために、人間の内ではなく、外部ハードウェアとして正義心を持とうとした結果である。

 人は弱い。あらゆる事に影響を受け、簡単に折れる。
だからこれが作られた。それは人類が滅亡したその後だろうと、帝國の正義を貫くために作られた人の意思である。

 その機体の名前を蒼龍と言う。日本に連なる妙なる国々において、武運には恵まれないものの、武勲の誉れ高い艦名であった。その初代は御召艦であり、その第2代は空母であり、その何代目かの子孫であるこの機体は、最も有名な第二代と同じく、僅か50mでありながら、攻撃空母番号を取得していた。

同時に戦闘機としての機体番号と騎士号をこの機体は持っており、軍艦と戦闘機と帝國騎士の三つを兼ねる、唯一の機体であった。

 戦争の時代である。或いは平和な時代であったなら、技術の過渡期にあたるデモ、テスト機として生涯を送っていたであろう。だが時代はそれを許しはしなかった。

彼女の生涯はその最初から武勲に満ち溢れている。

 親元にあたる星鋼京の増加燃料槽開発の協力でテスト飛行中で緊急連絡を受け、そのまま、空中でテストプログラムを戦闘プログラムへ換装、無名騎士藩とよけ藩への軍事侵攻を行ったセプテントリオンの部隊を空戦で破り爆撃して撃滅し、一度の出撃で2度の武勲をあげる。それが、蒼龍の華々しい実戦デビューである。

増加燃料槽によってAR+3の修正があったとはいえ、その戦闘力は圧倒的であり、帝國軍関係者は低AR機にならんで高AR機の開発続行を決めることになった。

 その蒼龍が、子機のかわりにバゲージポッド8つをつんで、空へ飛び立とうとしている。
バゲージポッドの中身はチョコである。

蒼龍の所有者であったポレポレの委託を受けた、宰相府の命令であった。
 国籍マークを外され、ただ皇帝の勅命を得た印を機首に書き込まれ、蒼龍は7時55分。特別作戦のために離陸している。

誰よりも高速に、その速度をもてあらゆる法の制限を叩き潰し、チョコをばら撒くのだ。
帝國に、共和国に、ニューワールドの全部に。

蒼龍は一旦公海に出て欺瞞航路を取ると、極低空へのシャローダイブを決行。そのまま高度-20m(帝國の高度0は宰相府の飛行場がある海抜60mのことである)で波しぶきをあげながら亜音速で飛んだ。全てのレーダーからロストして、共和国に侵入。チョコをばら撒き始める。

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 レンジャー連邦沖、20km。
8時50分。 漁船はもう帰り終わっていて、釣り客を乗せた釣船だけが、海に出ていた。
その釣船が、跳ね上がる白波をしずしずと従えた蒼龍を見ている。音速近くでも、遠くから見れば意外にのんびりとしているように見えるものだ。


船が大きく傾くほどの干渉波。うちの空軍はなにをやってるんだと、釣船の船長はカンカンであった。まさか帝國の新型機とは夢にも思っていなかったのである。

すぐに漁船の無線で文句が飛んだ。文句は役所から政庁に、政庁から空軍に飛んだ。
空軍ではすぐに大騒ぎになった。そんな時間に訓練飛行はしていない。

空軍はすぐにチェイス機を大量動員。開発中の防空システムに深刻な影響を与えることになった。

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「見えたぞ」
 むつきのドランジは目視でようやく正体不明機を見つけた。彼だけは妻のチョコを食べつつ航路を予想して網を張っており、だからこそ出来た、インターセプトであった。
急いで上がれば迎撃できるというものでもない。

見慣れない機体だった。美しいと思う。彼の戦闘機、燕姫も美しいが、それとはまるでタイプの違う、気高い猛禽のような美しさだった。

「撃墜したくはないな。美しい」
ドランジはそう管制に言うと、無線で呼びかけながら追いつこうとした。

そして追いつけなかった。蒼龍は会話する必要を認めず、悠然と速度をあげて音速を楽々突破して、誰も追いつけない速度で飛び始めたのである。

蒼龍は市街地手前、30kmで高度をあげた。ポップアップ。バゲージを切り離した。
にゃーしゅが預けていたチョコがばら撒かれる。蒼龍は機体バランスを修正するために機体を傾けて飛翔。

3分で国境を越え、地上からチョコによる爆撃ですと聞いたドランジを大いに笑わせた。

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 紅葉国の舞花は、亭主とともに地上でデートしていた。海底都市ばかりでは息がつまる。
そして蒼竜を目撃した。夫婦で並んでい見ている。そして並んで見送った。

久しぶりに目を輝かせて空の話をする亭主に、舞花は微妙な気分。えーと、だからデートですっと言って、照れる亭主の顔を見るまでは許さなかった。

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 キノウツンでもチョコはばら撒かれていた。
蒼龍は悠々とキノウツン上空を飛んで、迎撃にあがるうささんとhi-うささんたちの群れを振り払い、やーんと泣かせつつ、ぽんすけの依頼したチョコをばら撒いた。

精密照準モード、めぞんキノウツン。爆撃。成功。

バカのように口をあけていた青狸とアシタの口にチョコが命中する。二人はぶっ倒れた。

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 無名騎士藩のドラケンは親友の和錆から貰った酒を飲み損ねてぼやいていた。
レンジャー連邦より正体不明機の話が出る。蒼の7号で迎撃に出た。

無名騎士藩の技術が絶頂の頃に作られた蒼の7号は人型でありながらそんじょそこらの戦闘機より遙かに高速を出せる機体である。

 蒼の7号は併走することが出来た。
ドラケンはその鋭い眼でニューワールドを2分する皇帝の文様を見たが、報告時は正体不明機で押し通した。バレンタインチョコ輸送中と書いてあったからである。彼にはそれを邪魔するような、そんな野暮な事は出来ない。

だいたいあの機体には覚えがある。一度、箒に乗った魔女と組んで我が国の空を護ったやつだ。借りを返すぞと言って、蒼の七号はインメルマンターン。そのまま基地へ帰還した。

蒼龍は無名騎士藩全域にチョコを爆撃。
奥羽りんくと月代から依頼されて結城杏にチョコを精密爆撃後、最後に礼を言うように、垂直上昇して白い飛行機雲を皆に見せた。

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 蒼龍は玄霧国上空に侵入した。
玄霧国はまともな防空装備がなく、藩王は端から諦めて、んー。駄目だった時は駄目だねと腕を組んでいる。腕は震えている。

 蒼龍、爆撃開始。イクが預けたチョコを全てのACEに爆撃すると、そのまま悠然と飛び去った。藩王の威厳は護られた。

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輸送貨物の半分をデリバリーし、燃料の半分を消費した蒼龍はさらに速度をあげ、帝國へ帰還コースを取る。

 敵味方信号は出さない。この作戦は特別任務なのだった。蒼龍は最強の敵である宰相府秘書官団の戦いに備える。あちらはあいにく洒落が通じない。

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