電網適応アイドレス シーズン2

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<<   作成日時 : 2009/01/29 17:53   >>

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宇宙の戦い(4)

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風野は亭主であるペンギンの乗るエアバイクの後部に座って、ぎゅうぎゅう抱きしめた後、半ヘルをかぶりながら通信に向かって冷たく言った。

「命令を」

遠く、艦内の悪童屋元帥は優しく言った。
「OK、GO。アイドレスプレイヤーの力を見せよう。前よりましな事を。その成長を」

 味方があけた戦線の穴から、七つの世界を通じて最速の冒険艦、蝦天号がすり抜ける。
奇襲も、局所優勢も、ただこの瞬間のためだけにあった。

少数の歩兵を上陸させ、敵の司令部を制圧する、ただそれだけのために……この戦いはあったのだ。

それは悪童屋元帥の軍事ドクトリン、”敵と同じ土俵で戦わずに勝利する”の忠実なる実践である。
それは、宇宙を歩兵で勝つという、軍事上の手品であった。

突入20秒。縦深20kmの戦線は突破された。1分後には300km後方に前線を残し、5分後には1万kmを越えて艦は衛星の影に入っている。

 悪童は笑うと、即座に全軍撤退命令を出し、自らは目前に迫ったどこか地球に似た青い星を眺めた。

壊さないでよかったな。

そう思った。

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 蝦天号、宰相府にある超快速艦である。伝統にそって、この艦を彼女と呼ぶ。
彼女はエンジンが艦体の80%を占め、その装甲板は、大型I=Dのレーザーも簡単に拡散させた。この装甲は、むろん交戦のためではない。速度のためである。僅かな塵がぶつかっただけでも大破しうる速度で移動するための、必然なのだった。

 その装甲が赤くなるほどに、速度がでている。加速から10分ででもはや誰も捕捉出来ない速度で大気圏に突入している。

この艦は元々、エース用に運用されている艦だったが、アイドレスシーズン中は、その快速を生かして帝國と共和国の別を問わず、世界の悲しみを和らげるために使われている。
この艦だけは、彼女だけは、どこの軍籍、陣営、世界にも属していない。彼女が運ぶものは悲しみを和らげる慈悲の剣である。

悪童は立場的に帝國の力を見せようと言うところであったが、彼女の素性と経歴を慮(おもんばか)り、アイドレスプレイヤーという表現を用いた。
アイドレスプレイヤーだけは、どこの国にも、陣営にもあった。

石ころのように蝦天号が大気の中を落ちていく。
彼女は大気を色鮮やかに切り裂くと、地上の大気の過半を震わせてターン、逆噴射した。

最古のI=D、帝國の恐怖、クエスカイゼスが躍り出る。陸戦カーゴを、かかえていた。
着地。カーゴからランプ開いた。部隊が躍り出る。

 宇宙で陸戦部隊が使われたのは、実はこれが最初の例であった。

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 宇宙軍陸戦部隊の主力は、満天星国である。
エアバイク・ピケを開発した初心、ビギナーズ王国と、ウォードレス天陽で有名な都築藩国が、合併して出来た帝國の新しい国だった。両方の開発品目を見るだけで高い陸軍力を持つ国だと分る。

 満天星国の、これが初舞台である。
エアバイク・ピケをサイドカーにした”ピケチャ”を操り、前方啓開を開始、続いてペンギンとその新妻が続いた。
さらにその後方に、ぽち王女の従兄が治める越前藩の情報戦部隊、共和国からゴロネコ藩国の東原恵が、ついてきている。

 この戦いは、思ったより、苦戦した。

 想定では敵はまったく陸戦なんか考えてないだろうから楽勝だろうと言う希望的観測ではあったが、実際は現地の警察部隊が果敢に抵抗し、勝負は泥沼になりかけた。奇襲は成功したが、常駐する準軍事組織までは読めていなかったのだった。

満天星国は整備部隊と歩兵部隊の混合部隊だったが、戦力不足から整備部隊まで戦いに引きずり込まれて、戦っている。

この戦い、サイドカーが大活躍してる。このサイドカーに装備された機関銃を、整備兵はよく使いこなし、想像以上の戦果をあげている。

「意外にいけるなあ」
と言ったのは北国人+テストパイロット+名整備士+チューニングマスター+補給士官のアイドレスを着た、津軽である。見るからに後方要員なのだが、結構活躍できている自分に、驚いていた。

その後方、艦隊指揮あらため陸戦指揮の風野は渋い顔をしている。
作戦が外れたことが渋いのではない。どうせ輸送能力からぎりぎりではあった。
不殺で制圧し切れてないのが、嫌なのだった。

「やだね、戦争って」
風野は前席でピケを操りながら拳銃を撃つ亭主のペンギンに、そう言った。風野はこの、ぶっきらぼうでハードボイルドなペンギンが大好きなのだった。

指揮官が戦争いやだという発言で普通なら笑うところだったが、このペンギンは笑わなかった。ただ、うなずいた。

「まったくだ。それが分っていて戦争している俺たちは愚かだな」
「……ごめん。巻き込んで」しゅんとなる風野。
「鳥が好きにやっていることだ。人は気にするな。お門違いで種族違いだ」

風野は顔を赤くしてペンギンの首をしめた。この亭主、いまだに気遣いがなってないと思うのだった。

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「やあ、さすがエースで指揮官は余裕だなぁ」
満天星国の藩王、都築は牧歌的なことを言ったが、自らの言葉も到底戦場の言葉らしくはなかった。その様に、部下の多くが苦笑した。

「まあ、がんばっていこう」
都築は自らも苦笑してそう言うと、部下を督戦して勇敢に戦いだした。

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 上陸戦開始から2時間後。満天星部隊は主要通路の確保に成功。その20分後には司令部制圧に成功する。

「いよいよ、俺たちの出番だな」
といったのは、うっかり摂政の名前で有名な越前藩国、黒埼紘である。
この国は歩兵戦もこなせるが、その本領は情報戦であり、帝國の情報通信関係を、一手に握っていた。

くじ引きが始まる。この国は、大抵くじ引きで大事な事が決まる。
国民も、本気だった。

SEIRYUが祈りながら紙縒りを引いた。白。
椚木閑羽は沈痛な面持ちで紙縒りを引いた。白。

三人しかいなかった。黒埼はワンモアと言う目を見たが、国民に裏切られ、目を逸らされた。
肩を落す黒埼。意を決する黒埼。大股で歩く黒埼。声をかける。

「大将軍、お楽しみのところすみませんがー」
「はい?」

風野はペンギンの羽毛をむしっていた。舞い落ちる白い羽の中に、風野はいる。
夫婦喧嘩なのだった。ペンギンは難しい顔をしている。

風野はぺたぺたとペンギンに触れて咳き込んだ。
「すみません、身体が弱くて」

そりゃ嘘だろう、いや関係ないだろうと黒埼は思ったが、それには触れず、別のことを言った。

「突入を命じてください」
「あ、うん。ごめんねー。突入」風野、照れ笑い。
「聞いたか、突入」黒埼は目を合わせなかった。そうか、今日は目を逸らす日だな。
「へーい」
「はーい」

越前藩の3名は司令部前の扉で敵側の戦死者の目を閉じさせている都築に目礼すると、何の抵抗もなく殺戮の終わった司令部に突入した。黒埼は詠唱で最後の数名を詠唱で打ち倒し、SEIRYUと椚木閑羽はうなずくとコンソールに飛びついた。

ほどなく、司令部から各艦隊にコンピューターウイルスが注入され。銀河腕まるまる一つに広がる敵数万艦隊の位置情報、地図情報をばらばらにして広大な宇宙の中で迷子にさせた。

盛大な戦いの最後は、酷くあっけなかった。エンターキーを押すだけだった。
黒埼は使用した電子妖精たちを自壊させると、夫婦喧嘩の続きでも見ようと背を向ける。

脱出。脱出。

宇宙の戦いが、終わる。


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