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電網適応アイドレス ”アイドレスのアイドレスであるところの大きなロボットたちをI=Dという。” ”それは何の訳ですか?” ”私と死は同義であるの意味だ。” 亜細亜に向けて話された授業 31218002 /*/ 後ほねっこ男爵領の冬は、厳しい。家が壊れただけで、暖房が壊れただけで、面白いように人が死ぬ。 かつて転封されて最初の冬が来たとき、男爵領の皆は帝國をひどく恨んだものだった。 今はそれが誇りになっている。北風はコートを脱がすのは不得意だが、人を育てるのは得意なようであった。 その日の朝はひとしきり寒く。王犬であるじょり丸とそれを連れて少女は脚を膝まで埋めて歩いていた。 「……ついたね」 じょり丸は重々しくうなずいた。そして夜明け前の紫色の空を見上げた。 後藤亜細亜は、別のものを見上げていた。それは、宰相から彼女に贈られたプレゼントだった。 後藤亜細亜はエチオピアを見上げている。 万年貧乏国にはとうてい似つかわしくない、大型I=Dである。その装甲板からして、帝國一般のI=Dとは、もうなにもかも次元が違った。装甲の厚さにして20cmを超えている。ハッチを閉める際に勢いよく閉めないとそもそもハッチが閉まらないし、閉めるときにうっかりすれば、重みで骨折した。 このI=D、共和国で勇名を馳せた”アビシニアン”である。その戦闘力の高さにかねてから目をつけていた宰相府が巨費をかけて無名騎士藩国に作らせた、本家が作ったデッドコピーであった。 同じくらい大きく、同じくらい、大口径のレーザーを装備している。 亜細亜は、大きさが25mプールくらいだと、ぼんやり思った。高さは、体育館ほどありそうだけど。 深い青に塗装されたそれは、昨夜デリバリーされたはずであったが、早くも雪をかぶり、他の機体と同じように、空から隠されていた。 ここ、森の中にある真っ白の雪原。そこは、後ほねっこ男爵領におけるI=D駐機場である。 格納庫を作る金はなんとか捻出できても雪下ろしの費用がないという小国独特の事情で、野ざらしになっているのが、この国のI=Dである。 もっともいいことは、ないではない。冬の間は、I=Dが雪をかぶっていて、上からは何もわからない。 では夏はどうしているかというと、森の中に隠していた。この国のI=Dは、自然の中にいる。 /*/ 最初、このプレゼントには反対があった。兵器をいただくのは、大変嬉しくはあります。でも、子供のプレゼントで兵器を与えてはいけません。そういって、ほねっこ出身の秘書官、南天がせめて藩王への誕生プレゼントとしてお願いしますと、嘆願したのだった。 その時の宰相は薔薇を剪定しながら返事をしている。 「子供はいつまでも子供ではないんだよ。子供ってのは、なんでも自分が出来ると思っている間のことだ。それが終わって不安な間が思春期、その先にあきらめて生きるのが大人というのさ」 南天はがっくり肩をおとした。 「亜細亜ちゃんは思春期ですか」 「いや」 「ではもう大人ですか」 「いや」 「……?」 涙目の南天に、宰相は顔をあげていった。 「亜細亜はあきらめて生きることもやらんだろう。だからあれは、バカだ。大人だが大人でないことを、常識ではな、そういうのだ。あれはバカだと」 そしてささやかに辞書に異議を唱えた。 「むろん俺のゲームでバカと言えば、それは最高の褒め言葉なのだ。それより上は何もない、人があこがれ、心に描く理想は、そいつが本当にいれば、そいつは常識からバカと言われるだろう。だから俺は、亜細亜がバカであることを歓迎している」 /*/ 「はじめまして。エチオピアさん。私は後藤亜細亜です」 亜細亜は夜明け前の静けさを破ってそう挨拶した。頭をさげた。 頭をあげ、髪をあげ、髪を結び、コートを脱いでコートを雪の上に落し、細い体にすいつくような軍服姿になると、亜細亜は白い息を吐いてエチオピアを見上げた。 「これからたくさんの悲しみに、いいえと言っていこうね」 たくさんの血を流して、歯をくいしばって、それでもだけど、絶対に。 亜細亜はそう言って悲しいだけでは終わらない微笑みを見せると、手早くコクピットの中に滑り込んだ。全体重を流れるようにのせてハッチを勢いよく閉め、そしてハーネスをしめた。データリンクを開始、ヘルメットを装備していない警告、宇宙服を装備していない警告が表示される。 亜細亜は警告をオフ、そのまま宰相からもらったデータディスクを投入。プログラムを書き換えた。 黄金に燃える文字が打刻される。 それは、長いこと、待っていたのだ。そしてこれからもずっと待つであろう。 それは永遠にどこかの悲しみと戦い続ける、それだけのプログラムであった。 |
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