リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(29)

リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(29)

 伊勢薙乃は夢を見なかった。
 その事は、全員にとって幸いだった。
 彼女の夢から作り出された悪夢は強敵だっただろうから。

 薙乃が夢を見なかった理由は、常と同じである。
 即ち、戦っていたのだ。
 人の子が眠る時に、その夢を守るために戦うもの。伊勢薙乃こそ、誉れ高き、その一人。

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 暗い城の中を伊勢薙乃は進む。

 小さなもの、大きなもの。委細構わず、現れる敵を片端から……
「人気沸騰にお答えして、ゆかーり、バージョン2.5!! やっぱり出番はまだあった! 残念ね、ここから先は進めないわよ! それというのも、この私!」
「邪魔だ」
「って、ちょっと、きゃー!」
 ……蹂躙する。

 ただ一人からなる軍隊が敵を蹂躙し蹂躙し蹂躙した果てに現れたのは、黒髪の少女だった。

「ようこそ、悪夢の城へ。私が最大の悪夢よ。」
 禍々しい気を放つその言葉を、伊勢薙乃は、鼻で笑った。
「私の悪夢ではないな。地獄で我が名を唱えよ。特上席を用意させる。我が名は青の未来。我が式神はストライダー」
 足下を走る兎神が雨のように矢を放つ。その全てを援護射撃として薙乃が肉迫する。
 勝負は、

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 月光の元に浮かび上がる崩れ落ちる城。だが、それを見ながら、薙乃は苦い顔をしていた。
「所詮は幻、か。力押しでは落ちないということだな」
 崩れる端から城は、ゆっくりと復元する。城壁が積み上がり、芝生が現れる。緑の大地に花が咲き誇り、そして。

「それでも負けない、ゆかーり、バージョン3.14! ってあれ、なんかデジャブ?」
(無慈悲な爆発音)

「他人の夢……しかし、誰か一人の夢ではない。そうか、皆の夢が同調されているわけか」
 薙乃はつぶやく。
 集められた夢。つながれた心。すいあげられる感情。膨大な魔力が誰に使われるともなく、たゆたっていた。
 薙乃は肩をすくめると、そびえ立つ城に背を向けた。
 制圧が偵察になったが、成果はあった。
 準備をして戻ってくるとしよう。あるいは、とどめを刺すのは、仲間達に任せてもいい。

 伊勢薙乃は微笑んだ。
 余計な時間を一日とられることになったが、不思議と不愉快ではなかった。
 あるいはそれは、もう一日、仲間達と過ごせるから、かもしれない。

 薙乃は時計を見る。
 急げば皆が起きるまでにホテルに戻れるだろう。

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「パパー、朝だよ。早く起きよ」
「起きてる、起きてるさ」
 玄乃丈は、薙乃の声に応えた。
 やはり子供だ。夜が早い分、朝も早い。
 顔を洗って、酔いを覚まし、いつものスーツに着替える。
「どうだ? いい夢見たか?」
「パパは?」
 言われて日向は遠い目をする。かすかな夢の記憶が、一瞬、蘇る。あれは一体なんだったか……。
「ん、まぁいい夢かな」
「ふーん、パパはあんなのがいいんだ」
「っておい、何の話だ!?」
「教えてあげない」
 そう言って薙乃は、小悪魔のように愛くるしく笑った。

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