リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(28)

 結城小夜は夢を見る。
 夢は観察され分析され保存される。

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 小夜は闇の中にいる。暖かな闇が自分を包み込む。
 ふっと吐息を吐く。
 ずっと忘れていた感覚。闇の中に一人いる自分。
 闇の中には前もない。後ろもない。自分がない。故に迷わない。
 それは一個の道具であるが故に、そこに在る意味は完全に満たされている。
 闇の中に、ゆっくりと小さな思い出が浮かび始める。光太郎に会う前の、思い出。

 かつて壬生谷の里にて、結城小夜は、使い捨ての兵器として製造された。
 否。
 兵器には使い捨てという言葉は意味がない。
 役目を果たした道具が消え去るのは当たり前だ。
 兵器が望むのは、ただ、己を全うできる機会のみ。

 結城小夜という兵器は、壬生谷志功によって鍛えられた。
 心を縛られ記憶を弄られ、だが、今となっても結城小夜は、志功を恨むことはない。
 兵器として。道具として。ただ、己の性能の向上を目指していた頃は。いつか死ぬために鍛えていた頃は。
 とても。
 とても心地が良かったのだ。

 志功は厳しい教師であり、それは小夜にとって望むところだった。
 己の心身の限界を知り、それを超えることには、ささやかな達成感があった。

 ……あの人は、いつも気むずかしげな顔をしていた。

 志功は心を固く鎧っていた。滅多に表情を見せることはない。だが、時には、かすかに表情が覗くことがあった。
 苦しげな表情を、あの頃の小夜は、否定と判断した。すなわち性能が不足している、と、そう解釈し、より鍛錬に励んだ。

 今にして思う。あれは悲しんでいたのではないか。
 何を?
 自分を。結城小夜を。

 結城小夜は、生みの親の顔を知らない。子供時代を覚えていない。
 誰かが、おそらくは壬生谷志功が、ある子供を手にし、その心と体をねじ曲げ、こねあげ、切り揃えた。
 人の人たる部分を凍らせ、砕き、刻み、そして、結城小夜という兵器を作り上げた。

 今となっては、初めて自分を見て、光太郎が怒ったわけも、よくわかる。
 自分以外の誰かがそうされるのを見れば、小夜も怒るだろう。

 だがどういうわけか、未だに小夜は、叔父を、志功を怒る気にはなれなかった。
 そして、壬生谷志功がそれを悔やんでいたとしたら、悲しんでいたとしたら。
 それほど身勝手で愚かで矛盾した行いはない、その上で。

 こうして闇の中に浮かび上がる、その思い出は、小夜にとって暖かなものだった。

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 結城小夜は夢を見た。
 夢は観察され分析され保存され、そして複製された。

 闇の中に、山伏が生まれる。顔を覆い、心を殺し、それでもなお、あふれる後悔をにじませながら、山伏が飛ぶ。

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