バレンタイン御礼企画 チョコありがとうございます2

 エンターブレインという会社には地下牢がある。
炎熱編集にして鬼畜眼鏡、久保雄一郎が管理する、彼のコレクションたちが繋がれた場所だ。

書くのが遅い作家はコレクションとして地下牢に繋がれる。所謂缶詰であるが、まあなんだ。物はいいようであろう。

海法紀光も、その一人であった。
ここ3年ほど新作を踏み倒して逃げていた彼は地下70階あたりで重石と鉄球てんこ盛りで獣脂の蝋燭の明かりに照らされて、髪の毛を地面に照らして、幾日目になるかの朝を迎えていた。どうでもいいがこの状態では小説かけないような気がするが、久保雄一郎の気は済んでいるようなのでここではさておく。

海法は獣のような唸り声をあげた。走って逃げるレムーリア担当編集、千葉。奈穂のモデルですかといわれるたびに死にそうな顔になる面白い生き物であるが、彼女は久保に命じられ、海法にチョコを届けに着て、そして逃げた。海法の形相に、怯えて逃げたのである。もとより悪相であるから、これはまったくいたしかたあるまい。

チョコに気づき、脚を伸ばしてチョコを取ろうとする海法。脚をつりそうになる。

最近ごぶさただった、みーさんからのチョコ他、2個であった。
脚で引き寄せ銀紙ごとかじる海法。

獣じみた顔に笑顔を浮かべる海法。

「にがすじゅーよっか。にがすじゅーよっか」

つぶやき、天井を仰いで哄笑する海法。
力を込め、鎖を引きちぎる。チョコの僅かなカロリーが、彼に力を与えたのか。それとも毎日小便で濡らして錆びさせていた鎖がもろくなっていたのか。

否。否!

哄笑を続ける海法。加護だ。俺に加護が来たのだ。無名世界観の理を知らぬ愚か者どもよ。

久保め、編集め、締め切りめ、税務署め。新作が3年ないくらいで職業欄を無職に書き換えやがって。

いいではないか。2008年の海法は避け作家ではない。ただの避けだ!

海法は鎖を武器にアルバイトどもを脅すと、あえて地下におり始めた。
地上ではおそらく万全の作家対策がたてられているだろう。ここから逃げるには、もはや手段など選んでいられない。

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 レムーリア担当編集、千葉は、死にそうだった。別に奈穂のモデルですかと言われたわけではない。彼女は地下牢の99階にいる。

そこには、この地下牢の中でただ一人、自ら望んで地下牢に入っている者がいた……。

「だれ?」

声を聞いただけで震え上がり、平伏する千葉。座禅を組んで瞑想する大仏のごとき者こそ、BsLOG最長連載を欲しいままにしてやまぬ、狂気と恐怖の女戦王、オーバーロード、竪穴の主、奈落の大侯爵、運命を鍛えるものであった。

「ゆ、ゆうこさま!」

「そう、もうそんな時期なのね」

千葉は気絶しかけた。ゆうこさまは毎回登場のたびにエンターブレインの窓を叩き割って登場するので大迷惑なのだった。銃撃戦することもある。

ゆらりと立ち上がる大仏。 巨大、なんという巨大!巨体!! それは口からはもはや紫色としかいえぬなにかを吐きながら、動き始めていた。

「よけなさい。千葉」

千葉が逃げるのと重い扉が鎖と鉄球で叩き割られるのは同時であった。

海法が、金髪の縦巻きロールがついたかつらと河村さんや、和子、アポロンとらみ他の無謀なチョコ16個を持って着ていた。
チョコは直ちに蒸発して、この稀代の化け物に吸収された。どうでもいいが送ってきた中にいたリアル女子中学生がこの文章を読んでないことを願ってやまない俺がいる。

「レムーリア第三部を取りにきたのかしら」 NWCで言われるまで忘れていた女は言った。
「否、断じて否。我が望むのは避ける、ただそれのみ!」 海法は答えた。このやりとりを見て久保雄一郎は憤死するであろう。

海法はかつらをうやうやしく差し出すと、ゆうこがこれを身につけるのをじっと待った。

周囲に可憐な青い薔薇が咲き始める。震える海法。気絶する千葉。
俺はとんでもないなにかに火をつけたのか。 いや、だが俺は避ける、そう、避ける。
勝手に鳴り出す歯をくいしばろうとしながら思う海法。膝が笑う。

ゆうこ、流し目。海法は吐いた。

そして女は己の破壊力が何一つ衰えていないことを確認すると、ゆっくりと地上へ向けて歩き出した。

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 エンターブレイン防衛隊は16分前から一斉に砲撃を開始していた。
映画部門から徴発し、並べ立てた対戦車砲5門である。

TRPG部門の担当でAマホの編集である橋井が、鉄帽をかぶりながら即席のバリケードである倒した机の裏で、久保に、あの人はどうでますかねと言った。

久保は、何事もないかのように仕事をしている。彼女が取り乱したのはオフ会で女性に抱きつかれそうになって逃げ回ったときのみである。まさに鬼畜。

「来るな」

久保はそう、つぶやいた。

フロアの窓ガラスが、全て同時に吹き飛んだ。乱舞する窓ガラスと反射する光。

120kgを越える弾丸が、衝撃波とともに突っ込んできたのである。
机の引き出しからP226を取り出す久保。

爆発。爆発。対戦車砲はただの一撃で粉砕された。

裕・子――――爆誕。

芝村裕子、文句なく世界一強い女作家にして冒険家。

彼女が来ることは、死を意味する。

 絶技大跳躍か……ありゃ死ぬな。迫りくる金色の縦巻きロールと黒い影を見上げながら、橋井はそう思った。



エンターブレインのビルが爆破された。

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一方、その頃。

「裕子?」

 雷蔵は不意に雷蔵の友達の中でここ最近姿を見ていなかった友達の名前をつぶやいた。

周囲は戦場である。知識の足りぬ星見司が誤って呼び出し、無限増殖を始めた”なりそこない”を、雷蔵は相棒と共に際限なく叩き潰し続けていた。芥辺境藩国はなりそこないに蹂躙されつつある。

良狼は雷蔵と背中合わせになった。不機嫌そうに見えるが、別に不機嫌ではない、そんな漢である。口を開く良狼。

「なんといった?」
「裕子だよ。今、裕子の声がした」

良狼は嫌な顔をした。彼は雷蔵ほど無頓着ではない。彼が何か言う前に、近くの黒電話がなり始めた。20秒前には存在しなかったはずの電話だ。

雷蔵が、なりそこないを蹴り倒して、良狼をちらりと見た。
「どうする?」
「あいつはいつも厄介ごとをもってくる」
良狼の返事。

「じゃあ、とってもいいよね。今より厄介なのはちょっと思いつかない」
良狼が何か言い返す前に、雷蔵は突撃してもう何体か撃破すると、電話を取った。

「なんと?」良狼は怪力発揮、5、6体をまとめて投げた。

雷蔵は受話器を持ったまま、回転蹴り。口を開く。
「俺がプレイヤー側で参加するのは反則だが今日はバレンタインデーだ。仕方ない。勝たせてやるって」

良狼は難しい顔。
「どういうことだ?」
「知らないよ」
雷蔵は口の先を尖らせた。

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 いくつもの世界で黒電話が鳴り始めた。
それこそは盛大なバレンタインデーのお祭りのその開始であった。

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黒崎のソウイチローこと、ソウイチロー・黒崎は懐かしい電話が現れたことで口を開いた。
3年ぶりに見る、何かもはじまった時に見たものであった。

電話を取るソウイチロー。

「俺は引退して後方任務中だ。悪いが他に当たってくれ。指輪を買うためにはマイルがいる」

電話の声をしばらく聞いて、ソウイチローは口を開いた。

「だがまあ、医者やるぐらいならいいかもな」

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 サクの矢神は、サクから離れるとサクが壊れると信じて疑っていなかった。
だから電話を取らず、ただ皆の無事を祈った。すまんとあやまりながら。

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 悪童屋・四季という男がいる。小太刀・加納を育てたエースである。だから己を悪と信じて疑っていなかったが、彼には誇りがあった。それは育てあげたという、ただそれだけである。

だたそれだけ故に、彼は危機という危機を渡る旅人になった。称号の名をエースという。どんな飾りもない代わりに、考えられる最高の最低を味わう心のありようである。
それはこの世の災厄を狩る災厄であり、ただの人間から現れた人でなきものであった。

 彼は是空からの短い手紙を受け取ると、己の城を棄ててまた旅に出ることにした。
彼は何もかも自由にならぬ男ではあったが、心だけはいつも自由であった。彼がそうあろうと思っていたからだ。

彼の妻、四季のスイトピーは朝起きて、夫がいないことを知って寂しく思ったが、悲しくはなかった。

彼女の見る窓ガラスには夫の筆跡で銀色の文字で、貴方のことを常に想っているとだけ書かれており、彼女はそれを見ていたからだった。

彼女が見る端から文字が消えていった。それこそはエースの絶技であった。

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 黒電話を取るアポロの英吏は、彼女のいる玄霧藩国の地理関係を頭に思い浮かべて召集に参加することにした。開いている片手は、彼女から貰ったチョコを弄んでいる。

「分かった。出よう。デートの前に片をつけたい。嘘だ、後半は気にするな」

英吏は顔を赤らめて電話を切った後、自意識過剰だなと思った。次は紅茶が好きだとちゃんと言おうと考える。

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 英吏の同一存在でも、南天の英吏はいささか特別だった。宰相府藩国で総作戦立案をしていたからである。考えられる最良の布陣と誰をも殺さずに勝ち抜ける作戦は、大部分がこの男の頭脳からでていた。

長時間の作戦立案に疲れ、部屋から出て外の空気を吸おうとする英吏はなぜか体育座りで部屋の外でまってた南天の姿を見つける。英吏はそれで、ちょっと笑った。

「どんな御用であろうか」
「秘書官で出来ることありませんか? ら、雷電とか」
「貴方の雷電はまだ小さい」

英吏は笑って雑談を数分した後、外には出ずに、作戦室に戻った。
彼が何故気を変えたか、南天にはついに分らなかった。

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>a:


>a:change omega

>ω:不正処理エラー:オメガドライブは存在しないメモリ領域にアクセスしています。
>ω:^C
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>ω:
>ω:High_movement_fantasy
>ω:どの高機動幻想を起動するか入力してください。
>ω:Sword_Embryo
>ω:パスワードを入力してください。
>ω:pass:?
>ω:pass:Human decisive battle existence
>ω:貴方の名前は?
>ω:名前:ACE_No003

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*電網適応アイドレス システム2 *
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”貴方が負けたのなら七つの世界の誰も勝てはしないことを認めます。”

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 皆が黒電話を取る中で、4人だけその例外がいる。
その一人は、偽名の一つが比較的良く知られている。ロボ、という。名前の意味は狼の王で、その割りに眠そうな目をした冴えない男であった。

4人は砂子からのチョコを分けて食べている。

 英雄の携帯電話が鳴り始めた。例外の4人がとったのは、黒電話ではない。
電波に感応した電話周辺のリューンが黄金の輝きを見せ始める。
着信音は英雄召喚~ソードエンブリオ~である。

 月代の声が明るく歌の前の台詞を読み上げる。それはどこかのファンが助けられた礼として心を込めて歌ったものだった。

”ソードエンブリオ、ソードエンブリオ、ソードエンブリオ!!”
”今日の合言葉はソードエンブリオ”
”本当の想いがある人が合言葉を唱えれば”
”どんな夜も越える英雄が登場するのでございますですぅ”

”英雄召喚! ソードエンブリオ!!”

この明るい声こそは絶望の縁で鳴り響く、英雄を呼ぶ声である。

電話を手に取る冴えない背の低い中年。口元は優しく笑っている。
「はいこちら、無料が自慢の英雄量販店、お友達は今日の合言葉を知っているかな?」
「ソードエンブリオ! ソードエンブリオ! ソードエンブリオ!」
 景気のいい女の声に微笑んでロボは言った。
「かしこまりました。吉報をお待ちください」