リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(26)

 日向玄乃丈は大神の末裔である。人にして狼である性か、月の満ちる夜は、心ざわめくものがある。
 慣れない柔らかなベッドで、しばし眠れぬ時間を過ごした後、日向は着替えて部屋を出た。

 都会といえど、アルカランドの空は澄んでいた。
 沖天にかかる月は満月に近い。
 東京では、けぶって見える月は、今、艶めかしい肌をさらしていた。

「何をしている?」
 冴え冴えとした夜気の向こうから声がかかった。
「あぁあんたか。枕が変わると眠れなくてね」
 日向は金美姫を見る。どうしても彼の知る、もう一人の金と比べてしまう。
 生真面目なところは同じだ。内に燃える何かに追い立てられるような生き方も似ている。
「失敬な男だな」
「ん?」
「こっちを見て、別の女を思い出していただろう」
「あぁ、こりゃ失礼。だが女じゃない」
「あぁ男色趣味か」
 日向、軽く胸を押さえる。
 わりと最近、自分が枯れてる気はしているが、豪奢な美女から何もかもわかったという顔で、そう言われると、さすがに堪えるものがあるのだった。
「……違う。あんたの従兄だ」
「安心しろ。私は男色趣味には寛容だ。この世の女性は私のものだが、男同士が愛し合うのは何の問題もない」
「……」
 この女が金大正に似ているはずはない。さっきのは思い違いだ。日向はそう思う。
 金美姫は、咳払いをする。
「おまえの思い人については……」
「いや違うから」
「我が従兄とは知り合いだったのだろう? 私はまだ会ったことがないのでな」
「そうだな。よかったらそのへんで呑まないか?」
「望むところだ」

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 ところでアルカランドには、終夜営業している酒場はないのであった。
 ホテルもフロント以外は寝静まる。ホテル周りの歓楽街も、夜にはぱったり戸締まりされる。
 探せばどこかにはあるのかもしれないが、言葉のわからない異国で探すのは無理だった。

 というわけで、日向の部屋である。

「修学旅行だな、こりゃ」
 床にあぐら。紙コップと、スルメ。酒はワンカップと缶ビール。
 なお紙コップとワンカップ、缶ビールは、 ロジャー・サスケ製作「旅のしおり」の指定である。
 馬鹿馬鹿しいと思いつつも、律儀に守っている日向玄乃丈だった。
「修学旅行?」
「あぁ学生が大人の目をかすめて酒盛りするんだ。こんな風に。男だけかもしれんが」
「なるほどな」
 金美姫は笑って、酒に口をつける。あぐら座りが様になっている。
「では乾杯だ。金さんに」
「従兄殿に」
「乾杯」

「それで。私と従兄は、そんなに似ているのか?」
 どこか心配そうに金美姫が問う。
「そうだな……」
 日向は微笑んだ。

 金大正は常に礼節を重んじ、愚痴の類は言わない。心は熱いが感情を現すことは滅多にない。つまり金美姫とは正反対だ。
 その金美姫という女は、はるばるソウルから日本に来て、その足でアルカランドまでやってきている。すべて聞いたことのない人を助けるものだ。
 成り行きだろうが愚痴混じりだろうが、それをできる者は少ない。
 そういうところは、従兄とそっくりだ、と、日向は思うことにした。

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