リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(20)

 アルカランドは田舎である。さすがに首都である王宮周りは、そこそこ開けているが、一歩そこを出れば、森、また森である。
「さぁ、早く事件を解決して姫君を安堵させるぞ」
 金美姫は、一人ではりきっている。
「どうした、早く捜査しろ」
「そう言われてもな」
 日向は途方に暮れていた。

 暗黒街という言葉には「街」が入る。大規模な犯罪組織が成立するには、それなりのインフラが必要だということだ。
 そして、この国にあるのは「村」だった。
 日向の知っているような暗黒街もないし、裏社会もない。
 集団誘拐事件をするような組織が隠れるのは極めて難しい。

 国外から襲来してる可能性は無論あるが、ヘリを飛ばすにせよ車を寄越すにせよ目に付きやすいし痕跡も残る。
「ってわけだ」
「役に立たん探偵だ」
「面目ない」
「そっちの魔女はどうなんだ? 無能でないならまじないの一つや二つ……」
「バカ、やめろ」
 誰よりも魔女の怒りの恐ろしさをよく知っている日向は慌てて止めた。
 肩をすくめて雷を待つが……何も怒らなかった。

「……どうかしたの?」
 ふみこが振り返る。滅多に見ることのない穏やかな瞳。
「あぁいや。別に」
 日向は答えながら首をひねった。
 ミュンヒハウゼンが片眉をあげ、主への無礼な発言をとがめていた。

/*/

 欧州の黒い森は、ふみこを憂鬱にさせる。

 アルカランドでは、深い深い森の中に、点々と切り開かれた集落がある。
 切り開かれた平野こそが人の住む場所であり、森の端境が理性の境界。
 森は、獣と悪魔、そして魔女の住む場所である。

 果てしない時を生きる魔女は、時に、記憶を消して、第二の人生を歩むことがある。そんなふみこが、何度目かの少女時代を過ごしたのが、このアルカランドの地であった。

 不死者が、果てしなく続く生に飽くきっかけは何か?
 ぶっちゃけ失恋である。

 ふみこの長い人生は、主に、恋人に逃げられて、その記憶をリセットすることで幾つかの区切りを迎える。

 特に森にいた時はひどかった。

 女性が美しいのは、男と女を意識するからである。
 逆に言えば世捨て人のごとく森にこもった少女は、醜いアヒルの子、そのものとなる。
 昔話に出てくる、醜悪な魔女そのものである。
 写真でもあって人に見せられたら、さすがのふみこでも、再起不能になりかねない、いや、その前に、熱核魔法で全てを葬りさるだろうか。

 記憶は時に残酷である。一個思い出すと連鎖的に嫌な記憶が呼び出される。失恋の記憶。さらなる失恋の記憶。その前の失恋の記憶。

 過去の過ちを認めず、もっぱら未来だけに生きるふみこだが、たまには、流される時もあるのであった。

/*/

 少女時代への憧憬が、憂鬱に代わり、憂鬱が怒りに変わりはじめる。
 ふみこの肩がわずかに上がる。
 それを見のがす日向ではない。薙乃の手を引いて距離を取った。金とて鈍感ではない。異様な気配を察して日向の元につく。
 小夜と光太郎は、ふみこのほうは見えてないが、もとより無意味に近づくことはしない。

 一人、世界忍者だけが、気付かずにいる。
「ふみこ殿、今日はいやに静かでゴザルな」
 ロジャーがつぶやく。
「おおかた、年増らしい悪巧みをしているのでゴザロう。だがコウタローの貞操は拙者がう……もとい守るでゴザル」
「年増は年増らしく、化粧直しでもしてるがよいでゴザル」

 光太郎と小夜、顔を見合わせる。
「バカ、走れ」
 日向が叱咤する。金、なんとなくついていく。
 全速力で林道をダッシュ。
 爆音と爆風が押し寄せたのは、およそ30秒後のことであった。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 12

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた 驚いた
面白い 面白い
ナイス ナイス
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
かわいい かわいい