リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(19)

 エミリオとバトゥは湖岸を歩いている。月光で見落としたものが日の光で見つかるのではないかと思ってである。
 爆発が巻き上げた泥や水草が湖岸に打ち上げられており、領民達が掃除をしていた。
「おはようございます。領主様」
 エミリオを見て、皆、帽子を取って挨拶する。子供達が親の後ろに隠れた。
「ありがとう、みんな」
 ぎこちない挨拶。

 スタンベルク家の名は畏れと共に語られる。悪魔憑きの暗殺者。古い伝統を潰すだったエミリオは、しかし、代々続く悪魔をその身に引き受けた。今度の事件も、悪魔の祟りだという声は尽きない。
 冷たい壁を乗り越えるには、少年は未熟で潔癖すぎた。
 はてさてどうしたものか、と、バトゥは思う。
 少年は、その全てを己の責任と感じている。その心は気高くはあるが、良い結果を生むとは思えなかった。
 とはいえ一介の傭兵にできることは限られている。

 そう思った時、遠くの梢から高笑いがした。

「はるか未来からやってきた!」

 日本語である。領民が騒ぐ。エミリオが領民を庇うように森へ向けて走り、バトゥがその横に追随する。

「時空を超えるスーパーヒロイン!
 翠色の髪の乙女。
 霧島レイカ。
 シカトに負けず再び登場」

 森のとば口。太い枝の上に現れるレイカちゃん。
 なんとかと煙理論で、高いところからの登場にこだわるのであった。

 アルカランドは東欧の田舎である。キリスト教文化の影響もあり保守的で、それ以前に寒い。つまり慎み深い服装が求められる。
 対するレイカちゃんは、おへそ丸出し+ミニスカート+木の枝の上。
 領民達は目を覆った。
 バトゥは、エミリオの前に出る。
「若君、目の毒です」
「いったい、誰だろう」
「商売女、でしょうな」
「それにしても奇抜な服装だ」
 エミリオ、顔が赤い。
「日本には、あのような風俗街があると聞いたことがあります。アキハバラとかなんとか」
「なるほど。あの境遇に至るまでにはきっとつらいことがあったのだろう」
 沈痛な面持ちでうなずきあう二人。

「えーと……」
 いつにないシリアスな対応に、悩むレイカちゃん。
「なんか間違ったかしら」
 腕を組む。額に指を当てて思い悩む。あ、滑った。

 枝から手を離したものだからバランスを崩したレイカちゃんは、残像を残して、思いっきり落下した。

「危ない」
 エミリオが走る。バトゥよりも速い。
 なんとなくこうなる予感がしていたのであった。
 走りながら距離を探る。絶望的な距離だった。できることとできないことを考え、エミリオは決断を下した。

「いけない」
 バトゥがつぶやく。
 陽光の照らす中、エミリオの体に漆黒の翼が生える。
 少年の小さな体は急激に加速した。

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