リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(15)

アルカランド上空に出現した高熱源体は、空中で加速すると、湖に落ち、大水蒸気爆発を起こした。
熱風が、木々を揺らし、葉が吹き荒れる。

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最後の瞬間、二人を救ったのは爆風だった。
横殴りの風が、少年と傭兵をもろともに吹き飛ばす。続いて大きな波が湖岸を洗い、二人の上に豪雨が降り注いだ。

バトゥは立ち上がる。手はまだ槍を放していなかった。最後の瞬間を思い出す。槍が伸びた。だが貫く手応えはなかった。はず。
少年を、探す。
いた。すぐそばに立っている。もはや、あの悪魔はいない。
少年は礼服をびしょぬれにして、藍色の髪がべったり額に張り付いていた。
指でなでつけるが、それでどうなるものでもない。
バトゥは顔に出さずに、少しだけ笑った。
死は往々にして悲壮だが、生きているというのはたいてい間が抜けている。それはそれでいいことだ。
少年は、バトゥを一瞬にらんだ。笑ったかどうかを探るように見つめる。
バトゥは槍の石突きを大地に置き、胸を手に当てた。

「バトゥ・ハライ、お呼びにより参上しました」
「よく戻られた。あなたの力が必要だ」

少年は真剣な顔で礼を受け入れた。
思い詰めた顔。余裕がない。
いや、と、バトゥは再び顔に出さず笑う。
この年で、しかも死の淵から戻ったばかりだ。であれば頼もしい。

「バトゥ・ハライは、これよりベルナ伯爵、スタンベルク・エミリオに忠誠を誓います」
「スタンベルク・エミリオの名において、そなたの忠誠を受け入れる」

エミリオはようやく力を抜いた。生真面目な顔に微笑みを浮かべる。

「これで、さっきのような間違いはもうないな」

なるほど、そうくるか、と、バトゥは仏頂面を保つ。
今度自分が死ぬと決めたら、その邪魔をするな、というわけだ。

「はい。この身を尽くして、若君をお守りします」

顔を伏せて応える。エミリオがどんな顔をしたかは分からない。握った拳は、かすかに震えていた。
誇り高い少年。良い領主になるだろう。死ななければの話だ。

「それにしても。さっきの爆発はなんだったんだ」
「隕石でしょうか」
「これも神の……」
悪魔を取り憑かせた少年は、不意に言葉を切った。神に背いた傭兵にも告げる言葉はなかった。
「いこう。湖岸に被害が出ているかもしれない」
「御意」

二人は、沿
月が煌々と照る。満月は近い。

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「ご、ごぼごぼ!」
湖から這い上がる人影があった。
翡翠色の髪から水を絞る。
「あーあー、ごほ、ごほごほん」
発生練習失敗。口から魚が飛び出す。

「えっへん」
咳払いして、びっと指で天を指す。

「はるか未来からやってきた!
 時空を超えるスーパーヒロイン!
 翠色の髪の乙女。
 霧島レイカ、ただいま参上!
 ……ってあれ?」

 声はむなしく夜に消えた。

「あれ、ちょっと。私、出てきたばっかりなのに、もう終わっちゃうの?」
 次回へ続くのである。

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