リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(24)


 夜が訪れた。
 一行の寝所はアルカランド首都のホテルである。背の低い、石造りのホテルだが、中は広かった。
 めいめいが、めいめいの部屋に入ってゆく。
 ホテルのドアの前に立ちつくす影が二つ。

 光太郎と、小夜である。手をつないでいる。
 問題は小夜の体質である。ほとんど常に光太郎に触れて魔力を補給する必要がある。
 二人が離れられない以上、同じ部屋で眠るしかない。結論は出ているが、しかし、そこから進めない二人だった。
「あーと」
 光太郎が間抜けな声を出す。
「は、はい」
 小夜が高い声を出す。
「こ、ここにいてもしかたがないよな」
 光太郎が自分に言い聞かせるようにつぶやく。
 右手で、ようやく、ドアを空けた。

 当然ながら、部屋にはベッドがある。二人が十分に入れるセミダブルのベッドだ。
「す、すいません」
「え?」
「私の、この体で迷惑をかけました」
「め、迷惑じゃねぇよ別に。それに、なんだ、元々……」
 そうなったのは俺のためじゃないか、という言葉を飲み込む。兄が死んだ時のことは、光太郎も、まだ平静には語れない。
 小夜は悲しげに微笑む。

 長い沈黙の末に、小夜が立つ。
「しゃわーをお借りします」
「あ、ああ。どうぞ」
 バスルームへ入る少女。流れる湯の音を聞きながら、光太郎は難しい顔でベッドに座っていた。

 そもそも光太郎、東京を出てから寝ていない。飛行機の中では結局、一睡もできなかった。これは小夜も一緒だ。
 鍛えた体である。数日の徹夜は、不可能ではない。不可能ではないが、しかし。
 人間、眠い時は、理性が飛びやすい。
 そして光太郎も健康な青少年なのだ。
 手の中に残る柔らかな感触。流れる水音。これから起きること。

 連載始まって以来のピンチであった。

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「コウタロー……それはあまりにも危険でござる」
 廊下の外ではロジャーがドアにコップを当て、光太郎の呼吸に耳を澄ましている。
「何が危ないの?」
 現れた薙乃が無邪気な顔でたずねる。
「絶対の危地にあって男が、己の意志に全てを託したのでござるよ」
 ぶわっと涙を流す。
 薙乃、首を傾げる。
「ほら、何をしているの、こんな夜に出歩いて。子供はもう寝なさい」
 ふみこが薙乃の耳をひっぱる。
「魔女」
 ロジャーが忍者刀を抜く。
「バカ忍者」
 ふみこが印を組む。
 しばしの対峙。沈黙。
 薙乃は、ロジャーのコップを借りてドアに耳を澄ましている。
 ふみこは、それを見て、事態を了解した。

「戦っている状況ではないようね」
「利害は一致してるでゴザる」
 二人とも邪悪な笑みを浮かべる。

/*/

 光太郎、外の騒ぎに気付かずに、立ったり座ったりしている。目が泳ぐ。
 腕を組んで悩む。

 落ち着かないのは小夜も同じである。
 冷水で水垢離をすれば、少しは静まるかと思ったが、胸の鼓動も全身の熱も一向に冷めはしない。
 落ち着いたら風呂場を出ようと思うが、いつまで経っても落ち着かない。
 この扉を開けたら……そう思うと、鼓動は、どんどん早くなる。
 熱が出る。
 呼吸が荒くなる。
 目の前が暗くなる。
 ……魔力切れであった。

「ど、どうした!」
 浴室で、倒れる音を聞いた光太郎が、立ち上がる。
「って、どうすりゃいいんだ!」
 状況は見当がついたが、かといって、浴室に踏み込むのはためらわれた。
 ためらいは一瞬だったが、その一瞬が命取りだった。

「コウ、早まってはいかんでゴザルよ」
 木っ端みじんになったドアをくぐって、ロジャーが風のように現れる。
「蹂躙するわよ」
 ふみこが浴室に踏み込む。
「パパー」
「って、おい!」
 なんだ、おまえらと言う暇はなかった。
 部屋は、少年少女は、またたくまに蹂躙された。

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