リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(13)


結城小夜が平静を取り戻すにはしばらくかかり、鼻血が止まるまで、もう少しかかった。
「この子、迷子らしいんだ」
光太郎が、すまなそうに
「薙乃だよ。パパ、ナギのこと忘れちゃったの?」
「いや、ちょ、おまえ、待て」
誰がパパだ、という言葉を、光太郎は飲み込む。親に捨てられたというのが本当なら、その子に言うべき言葉じゃなかった。
「だからぁ、前にも会ったでしょ」
伊勢薙乃に言われて、光太郎は首をひねる。
「前にも、こんなことやった気がするな。それはそれとして」
光太郎は小夜へ向き直る。
「さっき電話があってさ。日向のおっさんから」
「はい?」
「仕事だって。俺じゃなくて小夜、さんにも」
「パパ、お仕事?」
「ん? まぁな」
「ママもいくの?」
「あ、あぁ」
「じゃ、一緒に行く」
光太郎は、頭を掻く。迷子を家に置き去りにするわけにはいかない。
小夜は、うなずいた。

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「パパ!」
伊勢薙乃は、日向を見つけるやいなや走り寄った。
日向は、あわてずさわがず、薙乃を抱き留めた。サングラスをクールに押さえる。
「待て。話し合おう」
小市民であった。
「あ、悪ぃ。こいつ、迷子でさ。なんか親を捜してるみたい」
「そ、そうか」
汗だくであった。
「ひどいよ、パパ。ナギのこと忘れちゃったの?」
「いや、それはもういいから」
光太郎が、つっこむ。
「それで、あの……私たちに仕事とは?」
「あぁ。すごい依頼が来た。海外からだ」
「海外?なんでまた」
「神霊庁のほうから言ってきてな。断れん」
「と、外つ国ですか? わ、わたくし、その……」
「向こうのお姫様は、日本人のハーフで、言葉は通じるそうだ」
「そうなのですか」
小夜は目に見えて安堵する。
「海外旅行? パパとママとパパと一緒に?」
「ほう。海外旅行。拙者もゆくでござる」
「アルカランド? 田舎もいいとこね。典雅じゃないわ」
「ちょっと待て。なんでお前達までここにいる」
「神霊庁に呼ばれたのよ」
「拙者、海外旅行と聞いては黙っておれぬでゴザル」
ロジャー・サスケ、ニンジャルックで天井からぶらさがっている。
「光太郎パパ、あの人、変だよ」
「ん? あぁ、まぁな」
「光太郎パパ! なんと甘美な響き! ちなみに拙者はロジャーでござる。さぁ。さぁ!」
「さぁじゃねぇ」
「光太郎がパパなら、拙者もパパ。否。ママ! ロジャー・ママでゴザル」
拳を握りしめて、ぶわっと落涙するロジャー。
日向、薙乃の目と耳をふさいだ。
「パパ、何するの?」
「黙っとけ。教育に悪い」
愛の形は人それぞれにあっていいが、あれは十八禁だろう、と、日向は思うのであった。
「そうなの、ママ?」
日向の腕をするりと薙乃が抜け出す。
純真な瞳でみつめられて、小夜は、顔を真っ赤にした。
「いいえ、女の戦いは生まれた時から始まっているのよ」
ふみこが、口を挟む。
「私は、ふみこよ」
「ふみこママ!」
「いい子ね」
ふみこは、慈母のように微笑んだ。
「……似合わない」
小夜が、つぶやく。
「なんですって?」
「似合わないといったのです。それで猫をかぶったつもりですか」
「女のなんたるかを知らない小娘の言いそうなことだわ」
「そ、それがどうしたというのです!」
「光太郎なら、分かってくれるはずよ。どちらがママか」
「こ光太郎さん?」
「ねぇ。私と、この小娘。どちらを選ぶの?」
「いや、そう言われても……」
「拙者、拙者! ロジャー・ママ!」
「ミュンヒハウゼン」
「はい、お嬢様」
爆炎。
パンツァーファウストがロジャーを吹き飛ばし、壁に人型の穴を空けた。

「おまえら……いいから、外でやれ外で」
ぜいぜいと息をつく日向の背後に、いつのまにか起き出した金美姫が、首を振っていた。

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