リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(10)


マーコ姫と同じく、バトゥも「神隠し」と聞いて、大規模な人身売買組織を想定した。
バトゥは雇い主のエミリオすらも疑っている。
「神隠し」をでっちあげ、犯罪のもみ消しを計る。その箔づけとして自分が呼ばれた可能性を考えていた。

入国したバトゥは、召喚に応じる前に、現地調査をすることにした。事件の現場とされる湖に直行したのだ。
深夜のことだった。

満月が近い。
明るい月光を避けるように、気配を殺して進む。

気配が一つ。

アルカランドの田舎において、夜に出歩くというのは、よほどのことである。
バトゥは息をひそめて、地形を確認し、気配の裏を取れる場所へ走った。

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実のところ、エミリオとても、「神隠し」が完全に超自然のものと信じていたわけではない。マーコ姫よりは、地元警察を信用していたので、それが全く手がかりを見つけられないのなら、それなりの理由があるだろうとは考えていたが、犯罪組織による暗躍も可能性には入れていた。

いずれにせよ、ただじっと待っているのはエミリオの性分には合わなかった。
あるいは、父から受け継いだ遺産が、暗い心を刺激したのかもしれない。

事件の現場に一人出向く。天涯孤独の没落貴族のこと、供する者もいなかった。連れようとも思わなかった。

闇を歩くエミリオは、一つの強い気配を感じ取る。

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風向き。光の方向。地形。すべてこちらに味方していた。
バトゥは、完全な死角から、相手の気配へ回り込む。
その時、気配が動いた。こちらの動きを読み切って、側面に回り込もうとする。

常人が相手ではなかった。
バトゥは、使い込まれたカラシニコフ突撃銃を抜いた。威嚇代わりに、弾をばらまく。
あり得ない速度で、気配が避けた。
目視距離に入る。気配は、黒い闇に覆われていた。

「神隠しか」

相手が人間ではないことは確かなようだ。
バトゥは惜しげもなく銃を捨て、もう一つの武装を抜いた。
十字槍である。
長らく信仰を集めた教会の十字架より鍛え上げられ、あまたの悪魔の血に濡れた逸品だ。
強い想いと謂われの刻まれた物は、すなわち力を得る。

闇の中に白い光がきらめいた。

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闇の中に火線が閃いた時、「それ」は現れた。
スタンベルクの血に代々取り憑く悪魔。
今はエミリオの悪魔となったもの。
名を「食らうもの」という。

それは闇に生きるものである。それは目に頼らない。それは耳に届かぬ叫びをあげた。
反響定位。エコーロケーション。
超音波で迫り来る弾丸の軌跡を特定し、それは翼を広げる。

強いGを感じながら、エミリオは、敵の正体を確信する。
銃。猟銃ではなく、兵士の銃。突撃銃。
「神隠し」の黒幕か、そうでなくても領民を襲う危機。

闇に溶けるように「食らうもの」が走った。

白い光と闇は、数瞬の後、交差した。

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