リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(5)


「殿下におかれましては、ご機嫌うるわしゅう」
そう言って現れたのがエミリオだったことにマーコ姫は、少しだけ、ほっとした。
マーコは、エミリオが嫌いではない。旧弊なことは他の貴族達と変わりもないが、少なくとも彼は臣民を道具にはしない。マーコを批判はしても、嫌みは言わない。
「いかがなされました、ベルナ伯?」
「この度の事件で、外つ国の霊能者招くとの仰せられたそうで」
「ええ」
マーコは、内心、うんざりしてうなずく。だいたい先が読めたのだ。

「急を要する問題ではありますが、順序が違うのではありませんか? 我が国にも力持つ者は揃っております。なぜ、それらを、さしおいて、はるばる外つ国から招くのです」

それは私が聞きたい、と、マーコは思う。何もかも馬鹿馬鹿しかった。

「おっしゃる通り、急を要する問題です。我が国の人材と、外国よりの助けを合わせて解決すれば良いでしょう」
内心のいらだちを隠し、目を伏せてそう言った。

エミリオには、その表情が、国民を案じる慈母の憂いに見えた。

エミリオの心の中で、ぐるぐると色々なものが渦巻く。
一つは、マーコの言葉の正しさについて。貴族の面子のために助けを退けようとする自分の心根は、確かに狭量ではないか。
一つは、マーコを案じて。民を思えば正しいのかもしれないが、よりにもよって日本に頼ったことは、貴族の中での彼女の立場をいっそう悪くするだろう。

わきあがる苦い思いを即座に飲み下すには、エミリオは若すぎた。

「ならば、そうしましょう。もっとも、手助けが必要になることはないと思いますが」
つい、言葉がほとばしった。

「そうであれば何よりです」
マーコは微笑む。皮肉というよりは自嘲の笑みを、エミリオはまたしても誤解する。
姫が寄せた信頼を裏切れない。そう思った。

「殿下には、必ずや吉報をお届けします」

堂々と歩み去るエミリオの背中が、ひどく頼りなく見えて、マーコは、よほど声をかけようかと思った。だが、かける言葉を見つけるより早く、エミリオは部屋を辞した。

怒りにまかせて少年を追いつめた。その認識が、じわじわと染み通り、マーコは、枕を抱きしめた。寝室へ戻り、ベッドに倒れ込む。

霊能者がどうのという、自分からすれば冗談のような話が、少年にとっては大切だったのかもしれない。遅まきながら、そんなことに気付いた。

あやまる機会はある。どうせ日本から霊能者など来るはずはないわけだし、そのことを説明する時に言えばいい。

数時間後、日本から本当に霊能者が派遣される、という報せを受けて、マーコは泣きたくなった。

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