リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(4)

アルカランド王女、マーコ・ドロネア・エーディリウスは憤っていた。
もっとも彼女は年中、憤っている。
憤ることに疲れた時が、負ける日だと、そう信じている。

女官達の目の届かない自室で、黒い髪を振り乱して、大股で歩く。
その黒髪は、日本人の母から受け継いだものである。
マーコの母は、アルカランド国王に見初められ、大恋愛の末に結ばれたが、そこは伝統ある国のこと、様々なごたごたが積み重なった末、離婚ということにあいなった。
離婚後、日本で育ったマーコ姫は、九歳の時にアルカランドへ引き取られる。

現代日本のごく平均的な庶民として育った彼女にとって、アルカランド王室は、耐え難いほどに旧弊で窮屈にみえる。
自分が不自由なことを憤っているのではない。効果的な方法があるのに無視されることが厭わしいのだ。
国民と国土は愛している彼女である。

今、憤っているのは、いわゆる神隠し事件についてだ。彼女に言わせれば、連続誘拐事件ということになる。

地元の警察が成果をあげていないとすると、外国の組織が絡んでいる可能性がある。多分、大規模な人身売買組織ではないか。
極めて常識的にマーコはそう判断した。

続いてマーコが言ったのは、我が国の警察は、もっと科学捜査を取り入れるべきで、そのためには諸外国から専門家を招聘してはどうか、ということだった。

そこから、いつもの大騒ぎが始まった。
「諸外国」の3文字が発端だった。面子だけで生きている貴族達は、何かにつけて「外国」というものに反対する。なかには反対して議論することが存在価値であると心得ている者さえいる。

マーコは、憤る。
貴族にも生きる意味が、人生の楽しみが必要だろう。
だが、事件は現に起きているのだ。国民が傷ついているのだ。
臣民の命と引き替えに、貴族たるを楽しむことの愚がなぜ、わからない。

喧々囂々の議論の後、何がどう伝わったのかわからないが、最終的には彼女が「日本から霊能者を招く」ように命令したことになり、マーコは、本格的に脱力した。
寝室から持ってきた古びた枕を、ぽふぽふと拳で叩く。
この枕こそは、彼女が日本から持ち込めた数少ない私物であり、年来の友だった。
枕が変わると眠れない、という理由を押し通し、九歳の時から今まで使っている。
時に涙でぬらし、時に拳で叩き、壁に投げ、そうして丁寧に洗い、繕う。そんな仲だった。

侍女が扉を叩き、来客を告げる。
マーコは、あわてて枕を隠し、髪を適当に整えた。

「殿下におかれましては、ご機嫌うるわしゅう」
ベルナ伯スタンベルク・エミリオが不機嫌そうな顔を見せていた。

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