リターン・トゥ・式神の城外伝 月光城(2)


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「ただいまーっと」
がらりと戸を開けた光太郎は、夕餉の匂いに鼻をひくつかせた。
料理が得意な兄は、もういない。父は家では料理しない。となると。
「お袋、いるのか?」
声は空しく響いた。
食卓には、できたての夕食が並んでいた。置き手紙が一つ。
「旅行に出かけます 母より」
母は仕事の関係で、年中、出かけている。たまに家に帰ってもすぐにとんぼ返りする。
最近は、光太郎も滅多に家に戻らないので、ますます会う機会がない。

食器は三人分並んでいた。自分のもの。父のもの。そして、兄のもの。
親父は今日は遅いと言っていた。
となると、一人で三食食べるのはきつい。
光太郎は、少し考えて、携帯に連絡を入れた。
「もしもし……あ、小夜、さん? あーと、晩飯食った? いや、家でな。お袋が……」

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「人参に、ジャガイモに、豚コマ……。それにえーと」
買い物かごと買い物メモを丁寧につきあわせる。

結城小夜は、恋に迷える元魔道兵器のメイド見習いである。
幼い頃から壊す技と屠る技のみを学んだ結果、魔道兵器を失業してからこの方、深刻な社会不適応者となっている。

かつては、ゆで卵一つ作るのに台所を全壊させると言われたものだが、それでも最近は、教育の甲斐あってか、少しずつ、日常生活というものを学んでいる。
鳴った携帯を間違えずに取るどころか、番号と名前を確認する余裕まであったのが、その証拠だ。

「玖珂光太郎」
表示された文字を前に、小夜の胸は高鳴った。
光太郎がかけてくるということは、また事件でもあったのだろうか。
そういえば、あの人は、いつも、よく携帯を使っているのに、私のところへは事件でもないと滅多にかけてこない。そう気付くと何故か腹が立った。

「もしもし!」
つい声音に出る。
「あ、小夜、さん?」
「そうですが」
またぞろ事件でも起きたのですか?
私のような魔道兵器のことを思い出すのは怪事件でも起きた時に限るのでしょう?

「晩飯食った?」

予想外の質問に、小夜は、つんのめる。男性が女性に食事を誘うというのは、いわゆる、で、で、でーとの作法なのではないか。
彼女も学んでいるのだ。

「いえ、まだです。その……外食ですか?」
「いや、外食っつーか、家来ない?」
家。家に誘われる。
「いやお袋がな……」
「ご、ご母堂様がいかがされましたかっっ!」
──も、も、もしや母親に引き合わせるというのでは。
握りしめた携帯がみしみしと音を立てた。

「あ、いや、メシ作りすぎたみたいでさ。それで……」
小夜、深呼吸。自分の顔のほてりを感じる。
「お使いをすませた後になりますが……。私でよければ……是非」
できるだけ丁寧に言葉を選んで会話を終えた後、矢のように走り始めた。

東京は平和であった。

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