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zoom RSS 一方、その頃。 広島戦線(時間切れ間近)

<<   作成日時 : 2007/05/08 03:36   >>

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一方、その頃。 広島戦線
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 その砲はイギリス製だったが、国産だった。所謂ライセンス生産である。
戦後、この国の戦車砲で設計まで含めた完全国産というのは90mm減口径砲という変態砲しか、存在しない。昔はそれが、いささかならず、俺のこの胸を痛ませたものだった。

だがしかし。小太刀戦車長は耳あてを直し、ヘルメットをかぶりながら、思う。
例え英米のものであろうとも、この国で作られ、この国が守ろうと思う何もかもを守るのであれば、それはもはや、国産であると。生まれは違えど、その心は我が国の生みし、何かであろうと。

 小太刀が座る74式戦車”清子さん”内の戦闘室の温度は、34度ほど。エンジンの振動激しく、匂いは油と脂と硝煙で鼻が詰まって、もはやなんだか分からない。音は耳あてが防いでいたが、それによって敵の戦闘ヘリの音にも気付かないほどであった。索敵は目が頼り。細いスリットと、ペリスコープが、現在動いている視察装置の全部であった。

 先ほどから、操縦手の三輪が、怪しげな呪文を唱えている。念仏であった。
エンジンがまだ無事に動くよう、まだ動いてこの戦車が国防力を発揮する様、神仏に願っていたのだった。ともすれば棺桶になる狭い戦車の戦闘室は、だから祈りで一杯だった。

辛気臭いなぁ。もう。 小太刀は思う。三輪さん、俺はまだ30分は生きているつもりなんじゃがと言おうとして、いや、三輪さんもそれを見越して長い念仏を唱えているかもと思い直して腕を組んでうなだれた。 なんかしらんが小笠原からいつのまにか広島に移動してこっち、戦い続けで人も戦車もよれよれである。

都市伝説では青髪の英雄が、まだ粘って整然と人類を率いて戦っているという。
南方要塞だな。小太刀はそう考えて、少しだけ笑った。昔、虎雄が言っていた仲間のことを思い出した。奴がそこに身を寄せていればいいなと思いつつ。

「弾は後9発だぜ、小太刀」 装填手と砲手をかねる加納が、弾を込めて砲尾を閉鎖しながら言った。1発一抱えはある空薬莢を弾薬箱につめ、幼馴染である戦車長を見る。

小太刀は地図を見ながら、振り向きもせずに言う。
「安心しろ、清子さんの装甲は、たぶんそこまでもたん」
笑いとも、嫌な顔とも取れる複雑な表情の加納。
「エンジンの応急処置はできてますよ」
三輪が、突然念仏を中断して言った。そして念仏をまた唱え始めた。頭をかく加納。
「どうする? 小太刀」加納。
「決まっている。国を守るだ」小太刀はまだ地図を見ている。周囲を見るのもやめてはいない。戦車長は忙しいのだった。
腕を組む加納。
「んにゃ、そこんところは俺も分かってる。どう守るかやで、小太刀」
加納はそう言った。ペリスコープをのぞきながら笑む小太刀。

「決まってる。9発で9機の敵を倒す。その間に国民および居住者を避難させるだけ避難させる」
「その後は?」
「知るか、バカ」小太刀は笑いながら言った。そもそも9発撃ちつくすまで生きている自信もあまりなかった。
加納も、笑った。三輪も笑っていた。

状況はかなりよくない。僅か数日の市街戦で、広島市街地で無事な建物は一つもないようであった。なにせ敵が多すぎる。市民より多いんじゃないかとは、小太刀の素直な感想だった。

「良くわかった。それでいこう」
加納は、ほがらかにそう言った後、自分の乗る戦車の戦闘室の白い壁に触れて、口を笑わせたまま優しく戦車に言った。
「すまんな、清子さん。あんたをどっかの博物館にいれてやりたかったけど。……まあでも、俺らも一緒やで。それで許してくれ」

 74式戦車、愛称清子さんはその一言で、確かに加納たちを許した。装甲が薄い上に四方八方から滅多打ちにされた割に、元気に動き出したのである。あるいはそれは三輪の念仏のせいかも知れなかった。

 74式が、隠れていた民家の影からブロック塀を破壊して姿を現した。戦車砲が火を噴いた。土偶に見える敵の一体を50mの至近距離でばらばらにし、全力で前進。次なる射撃ポジションに移動してぶっ放した。また一機破壊。
今度は数名の学兵が逃げ出すのを助けや。もはやこの戦車はこの戦区の守り神であった。

「おい小太刀」装填を戦車長にさせながら自身は主砲の撃発釦に手をかけて加納はスリットをのぞいていた。目を細める。
「何だ、遺言は聞かんぞ、どうせ俺も死ぬ」
「いや、アララちゃんや」
「何だと?」

小太刀、あわててペリスコープを見た。確かに通りの向こうにうずくまったまま老婆にすがって泣いている赤毛の幼女がいた。
小太刀、口を開く。
「9発で9機やめ。9発で5、6機と女の子一人」
「よしきた」

 74式。隠れて撃つのが大好きな戦車である。だがこの時は、そうしなかった。全力前進しながら行軍射撃。電柱を車体で叩き折って堂々と姿を見せ、幼女を守って停車した。

「三輪操縦手、任務を解く」
小太刀は手早く言った。

「降車して、子供抱いて、走れるだけ走れ。もうこの戦車は動く必要はない」
「……分かった。幸せになるよ」
三輪は(幼稚園での一件以来)ロリコン趣味がある。この冗談を、小太刀と加納は笑い、そうして奮戦を開始した。

9発で、7機は倒せた。

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