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ヒルデガルトは嘘つきである。 大グレシアにおけるエルムの寓意は「死」と「悲しみ」であり、決して幸福の寓意でもないし、その効能としての他人に対する妄想や仲たがい、思い込みの悪化を阻止する力など、それまでは誰も聞いたこともなかった。 中世最大の賢女とされたヒルデガルトがなぜ堂々とその嘘をついたか、考えたことはあるだろうか。 私は思う、ヒルデガルトは嘘をつかねばならなかったのだと。 心より嘘を信じてそれを堂々と言わねばならぬ、それだけの状況が単にあったのだと。 /*/ ヒルデガルトは楡の木の木陰で背筋を伸ばし、目をつぶり、風にゆらぐ木の音を聞くのが好きだったのだった。 時は西暦1148年 今だ第4世界であった第1世界である。 どんな時も彼女が空を見上げたその通り、この日もいつもの通りに太陽が天にあり、人は暑いとこれを言ったが、彼女はただ微笑んで、何も言わなかった。 数少ない男の修道士にベンチを置いてもらい、彼女は今日も目をつぶり、木陰で風と木の音を聞いている。 多くの人は彼女が幻視しているのだとささやいた。 小さな鳴き声。 ヒルデガルトは微笑んだ。 一際大きな風とともに彼女の言う小さな者達、すなわち01ネコリスが木陰から姿を現し始めたのだった。 彼女はこの小さな者達に、主の教えを説くのが趣味であった。 「今日はエルムの話をしましょう。貴方がたが並んでいる、その木のことよ」 01ネコリスたちは物語を食べる。だからヒルデガルトがそう言うと、ネコリスたちは行儀良く整列してその声をまった。 「その木はね、<死>と<悲しみ>を意味しているのよ。こんなに大きく、私や、多くの生き物が木陰で安らいでいるというのに」 「きっと昔、死に行く誰かを休ませたのね。それは本当は優しさなのに、でも不吉な意味を持たされてしまった。可哀想だと、思わない? どうにかしたいと、思わない?」 ネコリスたちは互いに顔を見合わせ、円になって作戦会議した後、そうだと思いますとうなずいた。ヒルデガルトは目を見開いて色鮮やかに足元に並ぶ01ネコリスたちを見ると、明日には全ローマ圏に届く声で言おうと思っていることを言った。 「間違っているのはいつも物事ではないの、物事は神様の決めた法則の通り、ただ動いているだけ。太陽を見なさい。暦が完璧ならずれることは何もない。それは何も悪くはない。悪いのはたいてい、心のあり方なのよ。だから私は、まずは心をかえてやるつもり」 すでに老境どころか人生が終わってもおかしくない50ほどの年齢になっていたが、ヒルデガルトの口調は少女の頃のそのものであった。きっと魂も、そうであったに違いない。01ネコリスを見ることが出来るのは、大人ではそうそう簡単ではないからだ。 ヒルデガルトは口を開いた。 それは長いことエルムの木の木陰で休んでいたせいで、ついにはあの方はにれの木の木陰から出てこられたのだと言われる様になった老婆の、気に入った場所に対する返礼であり、まったくもって気に食わない物語に対する反撃の狼煙であった。 「貴方達を使わした星見司とか言う異教徒だかなんだかに伝えなさい。にれの木の寓意は幸福。その下にいる限りはどんないさかいも、ただの人間が努力してどうにかする、そういう意味よ。それが幸福でないと言うのなら、顔を洗ってもう一度目を覚ましなさい。分かった?」 ヒルデガルトは堂々と言った。 「それともう一つ、そこの木陰から人が出てきたら、それは明日の私と同じように、戦うしかないから戦うのかもしれない。もしそうだったら、味方してあげて。きっと私のファンだから」 |
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