裏マーケットボーナス:アルトピャーノ藩国で岩崎は
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アルトピャーノ藩国で岩崎は
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岩崎という男は、もうずっと前に死んでしまっていた。
おそらくは竹内が戦死して、その日、泣きながら山口の家に泊まった日に。その結果を、味わった時に。
とじ目を開き、永遠に迎えるはずのなかった春風を感じて、岩崎は鈴木ファンタジアが、心の剣を取りなさいと言っていたことを思い出した。
心の剣が何を意味するか、彼にはついに分からなかった。
あるいは上田くんのようにおかしくなれば、意味は分かったのだろうか。
でもそれも、どうでもいいことだ。
岩崎は自分を笑うこともなく思う。
竹内くんが戻ってきた。葉月さんもいる。だからもう、どうでもいい。
僕に必要なものは、全部ある。
岩崎はそこではじめて微笑んだ。
本来必ず死ぬはずだった彼を形作っていた屈折させた思いも、立場からも解き放たれ、それが故に世界としては正しく死に、そうして今は、寝場所を点々とすることもなく、足を抱いて寝ることもない。
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あんなに嫌いだった青から物を貰った時、嬉しいと思ったのは、竹内くんがいるせいだな。岩崎はそう思った。葉月さんはゲームが嫌いだから、ここは隠れて遊ぶこととしよう。
その考えは20秒で粉砕された。なにもかも見通すような竹内に、山口のところにいけと言われたからだった。嘘はいけませんよと、言われた気がして、それで岩崎は自分を恥じた。
葉月さん僕ぁね、青からゲームを貰ったんですよ。
お礼、言いましたか?俊くん。
ええ。もちろんですよ。葉月さん。
よかった。あの、あんまりゲームに熱中して、私を忘れないでね。
優しい葉月の微笑みが、岩崎は、泣くほど嬉しかった。
僕の大切な友達を次々と狂わせる、青髪の小娘すらも、今なら許せそうな気がした。
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岩崎は周囲を見渡した。
口を開けなかっただけ上出来で、それはゲームというものを普段扱わない岩崎に、びっくりの光景だった。
「吉田さんはすごかったのかも知れないな」
整備不良の銃を撃って、吹き飛んだ指のせいで退役する時、みんながもう戦争しないんでいいんだよ、良かったねと言った時、彼女はなんと言ったっけ。
泣いていたか。もうゲームが出来ないと。
岩崎は歩きながら、自分だけが幸せということに後ろめたい気になった。
もうゲームをやめたくなる。大きな森の中で、足が止まる。
黒い髪のソーニャが木陰から押し出されて現れて、声をかけたのはその時だった。
彼女はアルトピャーノ藩国唯一の女性で、それで
「あ、あの」
「なんだい? 綺麗なお嬢さん」
「あ……」
予想外の攻撃に、ソーニャはうつむいて顔を赤くした。
すごいな最近のゲームはと思う、岩崎。これならたしかに吉田さんでなくても遊びそうだ。こんなのが急に遊べなくなれば、どんなに悲しいことだろう。
「あ、あの、その、手をとりダンスするってよく分からないのです」
ソーニャがそう言うと、岩崎はそこで我に返った。吉田さんに手紙でも送ろう。
「あ、あの、だから。手をとりダンスするってよく分からないのです。というか、みんなが貴方とダンスしろって」
「ごめん、僕もダンスは、出来ないんだよ。僕はずっと、女の人に好かれる資格なんか、なかったしね」
岩崎が素直にそう言うと、ソーニャはそこで、困ってしまった。
なんと言っていいのか、わからない。
「今は、あるんですか?」 男女のやり取りとしては間違ったことを、ソーニャは言った。
「もちろんないよ」 優しく笑って答える岩崎。
「でも僕は悪い人だから、無資格でやるのさ。悪いのは僕で、僕を好いている人じゃない」
ソーニャが岩崎をにらむと、岩崎はそれに気付いて、微笑んだ。
「なに?」
「自分を悪く言う人は嫌いです」ソーニャは岩崎の顔を見れずに言った。
「そうか、奇遇だね。僕も大嫌いだ」
岩崎は手を伸ばして強引にソーニャを引き寄せた。
「ダンス了解だよ、二人とも初心者だから、きっとノリーコ姫も許してくれる」
「誰ですか」
「教えない」
アルトピャーノ藩国で岩崎は
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岩崎という男は、もうずっと前に死んでしまっていた。
おそらくは竹内が戦死して、その日、泣きながら山口の家に泊まった日に。その結果を、味わった時に。
とじ目を開き、永遠に迎えるはずのなかった春風を感じて、岩崎は鈴木ファンタジアが、心の剣を取りなさいと言っていたことを思い出した。
心の剣が何を意味するか、彼にはついに分からなかった。
あるいは上田くんのようにおかしくなれば、意味は分かったのだろうか。
でもそれも、どうでもいいことだ。
岩崎は自分を笑うこともなく思う。
竹内くんが戻ってきた。葉月さんもいる。だからもう、どうでもいい。
僕に必要なものは、全部ある。
岩崎はそこではじめて微笑んだ。
本来必ず死ぬはずだった彼を形作っていた屈折させた思いも、立場からも解き放たれ、それが故に世界としては正しく死に、そうして今は、寝場所を点々とすることもなく、足を抱いて寝ることもない。
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あんなに嫌いだった青から物を貰った時、嬉しいと思ったのは、竹内くんがいるせいだな。岩崎はそう思った。葉月さんはゲームが嫌いだから、ここは隠れて遊ぶこととしよう。
その考えは20秒で粉砕された。なにもかも見通すような竹内に、山口のところにいけと言われたからだった。嘘はいけませんよと、言われた気がして、それで岩崎は自分を恥じた。
葉月さん僕ぁね、青からゲームを貰ったんですよ。
お礼、言いましたか?俊くん。
ええ。もちろんですよ。葉月さん。
よかった。あの、あんまりゲームに熱中して、私を忘れないでね。
優しい葉月の微笑みが、岩崎は、泣くほど嬉しかった。
僕の大切な友達を次々と狂わせる、青髪の小娘すらも、今なら許せそうな気がした。
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岩崎は周囲を見渡した。
口を開けなかっただけ上出来で、それはゲームというものを普段扱わない岩崎に、びっくりの光景だった。
「吉田さんはすごかったのかも知れないな」
整備不良の銃を撃って、吹き飛んだ指のせいで退役する時、みんながもう戦争しないんでいいんだよ、良かったねと言った時、彼女はなんと言ったっけ。
泣いていたか。もうゲームが出来ないと。
岩崎は歩きながら、自分だけが幸せということに後ろめたい気になった。
もうゲームをやめたくなる。大きな森の中で、足が止まる。
黒い髪のソーニャが木陰から押し出されて現れて、声をかけたのはその時だった。
彼女はアルトピャーノ藩国唯一の女性で、それで
「あ、あの」
「なんだい? 綺麗なお嬢さん」
「あ……」
予想外の攻撃に、ソーニャはうつむいて顔を赤くした。
すごいな最近のゲームはと思う、岩崎。これならたしかに吉田さんでなくても遊びそうだ。こんなのが急に遊べなくなれば、どんなに悲しいことだろう。
「あ、あの、その、手をとりダンスするってよく分からないのです」
ソーニャがそう言うと、岩崎はそこで我に返った。吉田さんに手紙でも送ろう。
「あ、あの、だから。手をとりダンスするってよく分からないのです。というか、みんなが貴方とダンスしろって」
「ごめん、僕もダンスは、出来ないんだよ。僕はずっと、女の人に好かれる資格なんか、なかったしね」
岩崎が素直にそう言うと、ソーニャはそこで、困ってしまった。
なんと言っていいのか、わからない。
「今は、あるんですか?」 男女のやり取りとしては間違ったことを、ソーニャは言った。
「もちろんないよ」 優しく笑って答える岩崎。
「でも僕は悪い人だから、無資格でやるのさ。悪いのは僕で、僕を好いている人じゃない」
ソーニャが岩崎をにらむと、岩崎はそれに気付いて、微笑んだ。
「なに?」
「自分を悪く言う人は嫌いです」ソーニャは岩崎の顔を見れずに言った。
「そうか、奇遇だね。僕も大嫌いだ」
岩崎は手を伸ばして強引にソーニャを引き寄せた。
「ダンス了解だよ、二人とも初心者だから、きっとノリーコ姫も許してくれる」
「誰ですか」
「教えない」