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電網適応アイドレス <Abandoned dog>(1) /*/ 旦那さま、貴方に神のお恵みを そんなものに期待するほど私は傲慢ではない。 <海法が実際に聞いたやりとり> /*/ 嫌な夢を見た。 出来れば一生見たくなかった、そんな夢だった。最近見るのは、そんな夢ばかりだ。 誰もいないのが恐ろしく、無口すぎるお師さまでもいいので傍に誰かいて欲しくて、八神は寝床にしている洞窟の壁に穿った穴から出て、ランタンを手に師を探し始めた。 幸いにして、そう長くは怖い目にはあわなかった。悲しい気分は、その後もずっと続いたが。 /*/ フードを取ってトーゴは空を見ていた。 「お師さま」 「ああ、八神くんか」 まだあどけない八神は、ランタンを手に、空を見た。 「火を消しなさい。星を見るには、まず、夜が暗くなくては」 師、トーゴの言葉にあわてて八神がランタンのシャッターを下ろすと、地平の果てまでの星空が浮かび上がった。 無言の時間。 無言に耐えかね、正確には落ちてきそうなたくさんの星の光に耐えかねて、八神は、口を開いた。 「お師さまは理力で星の光を作ることが出来るのでしょう?」 「そうだな。時期主力アイドレスのクューンエンジンは、確かに私が作ったものだ」 「そんな力があるのに、星を見るのですか」 「八神くん。力の奴隷にはなってはいけないよ」 トーゴはそう言うと、まだあどけない八神の頭に手を載せ、優しく言った。 「<ことわり>は力だ。我々理力使いだけが使う、万物を分けえる覇者の剣だ。だが何でも切って良いわけではない。決して」 トーゴはそう言って、空を見て言った。 「我々は山と蟻の中間だ。蟻でもないし、山でもない。山を裁く権限もないし、蟻をさばく権限もない」 八神は震えた。それは帝國では裏切り者が使う言い回しだった。 「それは猫の言い分です。お師さま。統制こそが無秩序と秩序を隔てる犬の<ことわり>です」 「我々だけが正しいわけでもなかろう。八神くん」 静かなトーゴの言葉に、八神は絶句した。 そして小さな声で言った。 「でも、猫は悪いって」 「誰かが言ったそれが君の、<ことわり>なのかい?」 八神は急にトーゴが遠い人になったような気がして、それで涙を流した。 目が覚めたときからずっと一緒だった、唯一の人だった。 「そうだ、魔術を教えよう」 トーゴは、笑って言った。 「魔術とは禁忌の力です」八神は本当にお師さまがどうしたんだろうと思った。 「この世に禁忌などはないのだよ。八神くん」優しくトーゴは言った。 「駄目です。やめ」 八神は抱きしめられて、涙を流したまま口をふさがれた。 耳元でトーゴはささやいた。 「心が曇ったら、澄んだ空や輝く星を見る。それが魔術だ」 「……? そんなものが」 「そうだ」トーゴは、そう耳元でささやいた。 そして八神を抱きしめたままつぶやいた。 「私の心は曇っている。だから輝く星を見ている。本当の輝く星は空にはないかも知れないが、だが何もやらないよりマシだろう」 トーゴは、見たこともない真っ黒なマントを着ていた。夜の、闇のような。 「八神くん。覚えておいてくれたまえ。星を見るには、まず、夜が暗くなくては。世界は良く出来ている。夜が暗いから心が暗く曇り、夜が暗いから、輝く星が現れる。我々の<ことわり>は、これとくらべてどれだけ良い<ことわり>なのか」 「お師さま……」八神が言うとトーゴは長い鈴を鳴らしながら立った。 「君が色々なものを夢に見るということは前の君になにかがあったということだ。八神くん、君が天領から離れる日が来てしまった」 「残念だ」 |
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