11日目(昼)29 アプロー登場

 夜明けというものがある。
地球の丸みにそって輝く、一人で見るには少しもったいない、そういう眺めだ。

 軌道に浮かぶ20の藩国の一つ、鍋の国にも、朝が来る。

「コウタロー、コウタロー!?」

無重量区画、テラが迎える夜明けが見える窓の部屋でコウタローは赤子のように丸まって寝ている。
ハーネスははずれ、コウタローは宙にあり、ゆっくりとゆるやかに回転をはじめていた。

遠くから、我を呼ぶ声がして、コウタローは涙を流した。コウではなかったから月子でもなかったし、さんがついてなかったから翔でもなかった。
だったらふみこたんだろうか。そんなはずは、あるわけもない。だから涙がでたのだった。

涙で出来た丸いその球は、飲み込んでしまえば場合によって窒息するもので、だから空調機械はゆるやかに動いて涙を動かしはじめた。

「コウタロー、コウタロー!?」
そう言いながらアプローがドアを開けたのは20秒後、コウタローの涙を頬に受けたのはその2秒後である。いたたまれない表情になって、アプローはコウタローを見た。
生まれたときから無重量に生まれた者の常として、足で器用に壁を蹴り、不正回転するコウタローに抱きついて回転をとめた。

「コウタローっ、コウタローっ!」
身を揺らされ、目を覚ます、コウタロー。目をひらけば、今はもう彼にはそれしかないそばかす顔があり、ロイを思い出させるポニーテールになった金髪があった。

「夢を見ていたよ。アプロー」
「夢?」アプローは低重力で育った割りに背が低くて170cmほどしかない。地上で育てば140cmほどしかなかったろう。コウタローと抱き合いながら、アプローは、コウタローと一緒に壁にあたった。動きがとまる。朝日が、窓から差し込んでいた。
「昔のことだ」
コウタローは優しく言った。

「立派な共和国の国民はそんなもの、3日で忘れるべきなのよ」
アプローはコウタローの過去を知らないが、時々ひどくそこに女の影を感じて、嫉妬を感じる時があった。過去を聞くのはにゃんにゃん共和国ではご法度である。たとえ昨日が犬であろうとも、今日より先で共に和すなら自由の旗の民であるというのが、彼らの誇りであった。

コウタローは何も言わなかった。ただ、顔を赤らめただけである。
アプローの手が大事なところにあたっていて、アプローは顔を赤くしながら、軽く飛んで部屋の端まで距離をとった後、やはり寂しいので戻ってきた。
ネットではなにもかもが大げさになる。

「というか、忘れなさい。貧乏暇なし、今日もお仕事よ」
「ああ」
微笑むコウタローが明日も同じような夢を見ていたら隣で寝て過去を思い出すたびに首をしめようと、アプローは思った。かれこれ3ヶ月同じことを思っているが、実際に出来たことは一度もない、多分明日も、そうなるだろう。

「それと、寝ている時にハーネス外すと危ないからめー。あと寝ているときに泣くのも危ないから駄目よ」
「地上人なんだよ。俺は」
「駄目よ」アプローはだって貴方は私のものなんだからと言おうとして、そして黙った。目を逸らして、別のことを言った。
「だって危ないもの」
「そうだね。それで、なんでこんな時間に」
コウタローは髪を手でくしけずりながら、言った。あきれるアプロー。
「もう、なにいってんだか国中大騒ぎよ。我が藩国が火星の海で大勝したのよ」
「そうか、じゃあ今日はお祭りだな」
「うん。仕事終わったら街にいこうね」
アプローの心配そうな顔を見て、コウタローは優しく笑った。
「分かった」

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