1日目(昼) 大絢爛舞踏祭コース

「暇だね」
 たった一言で水に包まれた星、火星と夜明けの船の現状を説明すると、エリザベスはキャプテンシートに足を乗り上げ、あくびした。

「息子がいなくなって暇そうだな」
運行スタッフが少なくなったので連れてこられたキュベルネスも、退屈そうである。

「そりゃそうさ。母親なんて、そんなもんだろ?」
エリザベスはそう言うと、息子が剣鈴をもって自分と並ぶ写真を見た。
「そうか」
キュベルネスにはその感覚が良く分からなかったが、とりあえずはうなずいてみた。

<時空振動、検知。オートスタビライザ作動、反動を殺しきれません。ご注意ください>

鯨のような新しい夜明けの船は、水中で翼を展開、一斉に艦橋のシャッターが降り始めた。

「ようやく見つけたね。MAKI、急速潜航用意」
艦長帽を被りなおすエリザベス。バーにつかまる。
核魚雷をくらったかのような衝撃。揺れ。400mの艦が木の葉のように揺れる。

<急速潜航、開始しました>
「遅れました」 走ってくる新水測長、ミズキ。髪型を変えていた。
「ったく、さっさと席につくんだよ、バカが」
 そう言いながら、エリザベスは上機嫌だった。母親が元気でないと息子も元気にはならないからね、と思う。心掛かりなのはあの子にぶいから、どっかでトラブル起こしてなけりゃいいけれど。

「機関。全速」
「機関全速」
<機関全速。水中速力20ノット>

「シールド、戦闘展帳」
「シールド、戦闘展帳」
<シールド戦闘展帳しました。水中速力200ノットまで23分11秒>
「頼んだよ、キュベルネス。チャンスは一回だ」
「操鑑だけならネーバルにも負けんよ」

仁王立ちになるエリザベス。
「ミカ!、カルロワとグラム、スイトピーを起こしてきな。ドンパチをはじめるよっ!」

/*/

 この頃マイケル・コンコードは女性である。というか、最近ずっと、女性であった。
だから、火星の風習に従ってミカ、と呼ばれている。そして今日はパイロットではなく、伝令だった。産卵日だったのだった。
変なポーズで立ったまま寝ているカルロワと、音もなく紅茶をすするスイトピーに、急いで!といい、厨房で嬉しそうに料理を作るグラムの首筋をひっぱりつつ、魚肉ソーセージをつまみ食いし、走った。

一気に食べる。飲み込む。滑り込む。緑色の髪が揺れる。

「大尉、連れてきました!」
「ありがとう、マイケルくん」
地球風に髪を下ろしていたが、泣き顔ハリーことハリー・オコーネルは、そういうミカの気持ちに、全然気付いていないようであった。そもそもミカ/マイケルを男性状態でも女性状態でも謹厳にマイケルくんと呼ぶのは、夜明けの船の中ではこの人物だけだった。地場の出ではないゆえ、火星先住民の風習にうといと言えばそれまでかも知れないが、ミカとしては僕、女として見られてない?と、ちょっと落ち込んでいる。

ハリー・オコーネルはミカを一瞬だけ見た後、咳払いして言った。
「それと、こういう日には、あんまり走ったりしないでいい。艦内通信使えばいいから」
嬉しそうにはいっと言うミカ。

グラムは皮肉そうに笑うと、何も言わずに4本腕の新型機”星詠号”に乗り込んだ。
胸部が2階建てになった星詠号は、静かにハッチを閉め始める。

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