5日目(昼)14 大絢爛舞踏祭コース4(主人公不在の日)

エステルは、生涯を船と共にするネーバルウイッチであった。
そして、船を失ったネーバルウイッチであった。

そのエステルがまた乗る船をみつけたのは、数年前になる。
船の名は夜明けの船、船に招いてくれた人はアリアンといい、エステルは、自分が死ぬとしたら、船と彼の為に死ぬだろうと思っていた。

荷物も取りに帰らずにエステルは下を向いてとぼとぼと歩いた。どう歩いたかは、余り覚えていない。

財布も持っていないことに気づいたのは、随分歩いてからのことだった。
泣きたくなる。

後ろから声が声がかかった。
「お一人ですか、フロイライン?」
「ドランジ……さん?」
あわててエステルは涙を拭いた。

カール・ドランジその人以外では嫌味に見えるだろう金の昇り竜の黒いスーツを着て、ドランジは嫌味にならないほどに笑って見せた。

「出来れば貴方の隣を歩く栄誉を得たいが」
「すみません。私、まだあんまり難しい言葉わからなくて」
エステルがそう言うと、ドランジは陽気に笑って口を開いた。
「元気だせってことさ」
「はい」
小さくうなずくエステル。自然に横を歩きながら、ドランジは、口を開いた。
「いや、実は恋敵に頼まれてね。君が心配だということで、騎士がついたってわけさ」
「恋敵って」
「ヤガミ」
「でも……それなら」迷うエステル。ヤガミの気持ちが分らない。いらない子といったり、心配してみたり。

ドランジは、言葉を勘違いしたか、全然違うことを、少し寂しそうに言った。
「一口で舞踏子といっても色々いるのさ。見た目の種類以上にね。ヤガミは一発で見分けつくらしいが」
「それなら私だって、一発で見分けられました」
「そうなのか?」
「はい。ネーバルウイッチでの和平式典で、ヤガミは、私を正しく認識して帰るぞって」
「あー。いや、そっちじゃなくて、うん。そうか、今までずっとコンプレックスだったんだが、ヤガミのほうが、特殊なのかもな」
「なにか?」
「好きな女くらい、見ただけで分かりたいじゃないか」
ドランジとエステルはしばらく無言で歩く。
それぞれが別のことを、考えた。

クラクション。

通りの向こうに停車した、小さな車からだった。
窓を開けた車の顔から見知った顔が見えた。

「ノギ少将」
「ケンカか、お二人さん? ま、散歩もいいが、どうだい、ドライブなんて」
ノギ少将は、眉毛をめまぐるしく動かした後笑って見せた。

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ノギ少将は、くたびれ果てたジャケットに、鳥打帽という格好だった。
小さな車を運転していた。
「どうしたんですか。少将」
ドランジとエステルが走りよって尋ねると、ノギは笑って言った。
「今は中将だ。いや、俺もヤガミに頼まれてな。久しぶりの親子水入らずだったんだが」
「それは……」
「いや、いいんだ。実際のところ、どう接していいか、分からなかったから。50年も生きているのに、情けない話だな。いいから乗れ」

 互いを見るドランジとエステル。
ドランジは車の後席ドアをあけてエステルを先に招きいれた。完璧なエスコートだった。
そこまでは良かったが、自分が入る段になって、頭をぶつけた。

「この車、小さいぞ」
大笑いするノギ。
「そりゃそうだ。日本車だからな」

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