4日目(夜)11 男女の本懐コース(1)

 小村佳々子は、洗濯物を慈愛号にかけていた。物干し竿を指に挟んで動きをとめた慈愛号は、穏やかであった。

佳々子は晴れ渡った秋空を見て、まぶしそうに、上を見て、そうしてあわてて、大木妹人、彼の良人を探した。天気がいいと彼がいなくなるのではないかと、半年たった今でも、そういう気分になるのだった。

 大木妹人はそれを見て笑い、大丈夫だよ委員長と言うのが常だったが、その日は、違った。

大木妹人は、縁側から足を揺らしながら、水道から滴り落ちる水滴を見ていた。
ただそれだけだったが、佳々子は、彼が水の巫女を探しに行くと、直感で思った。

「大木……くん?」
「あ、ごめん、ぼっとしていた」

 嘘だ。この人は惚けることは絶対にない。佳々子はそう思う。普段から針が落ちる音も聞き分けて、音もなく歩く、いつも、朝方にばうばう2と何十kmも走っていた。
この人はまだ強くなりたいんだ。たぶん、行方知らずの、水の巫女のために。

「悩み事? 委員長?」透明な笑顔で、妹人が笑って言った。
「ううん。あ、でも夕食の献立は、ちょっと困っている……かな」
佳々子は嘘をついた。あいこだと思ったが、胸は、痛んだ。
「それは難しいな。委員長、料理うまいから。分かった、一緒に悩もう」
「……」
「委員長?」
「うん。そうだね」
はじめてやった嘘笑いは、自分としてはひどく上手く出来たように思えた。

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