投票ボーナス1 辻野&田島

恋愛百景(1)

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 辻野友美は、走らずに歩いた。
そうすると随分、自分が大人である気がした。
それがなんだかくすぐったくて、顔が赤くなった。
隣の親父くさい若者にして究極超人とあだ名される田島順一は辻野と一緒に歩いていたが、辻野を見て、笑ってその頭をなでた。
髪がくしゃくしゃになる。目を細める辻野。
今のところ松尾以外でこれをされるのは、辻野だけだった。
だから辻野は、結構それを気に入っている。

「帰るぞ帰るぞ。そして晩飯だ」
「うん。かえろーかえろー」
辻野が大きく手を振ると、笑って田島も大きく手を振った。
大きな夕日を背にして、奇妙な男女が歩いている。
何のつながりもなかったが、二人は兄妹のようなものだった。

「あのね、希望ちゃん、振られたんだって」
「へえ」
 田島はふられるって何だろうと考えた。最初に思いついたのは振り逃げだったが、そりゃ違うだろと、自分で思い直した。

「なんだろうな、フラレルって」
「えへへ、わかんない」
「そっか」

田島が究極超人である99のうちの秘密の一つは、そこで優しく笑えるところだった。
田島は辻野の少し汗ばんだ手をとって、歩きだす。
辻野は嬉しそうに次の話を思いついては口にした。

今日は夕日がおおきいね、雲が一年くらい前にみたのに似てるねとか、そういえば今日は、カエル見たんだとか、そういう事だった。

田島は笑って話半分に聞いたりせず、一つ一つに返事して、質問したり自分の考えを述べたりした。田島は究極超人であった。少なくとも少しばかり知恵の足りないこの娘にとって、田島はかけがいのない話し相手である。
田島と、文句なく最高の教師の一人である男先生以外の人間は、辻野がしゃべると、皆退屈したり気が無さそうに返事するだけだった。
辻野は、生まれて一度も、怒ったり人を恨んだりしたことはない。そこまで知恵が回ったこともない。とはいえ、相手が退屈そうにしているのは分かったから、いつもは話している途中で、すごく悲しくなるのが常だった。

辻野は不意に顔を真っ赤にする。自分がすごく、幸せだとそう思った。田島と歩くのは、幸せだった。それをうまく伝えたいと思ったが、うまく口にだせなかった。

顔を真っ赤にしてあうあうと口を動かす辻野に振り向いて、田島は優しく頭をなでた。

「どうした?」
あうあう。

田島は優しく笑った。普段、あごをなでて不敵な笑いをするこの男は、極親しい人間には優しく笑うことができた。

「辻野、しゃべれない時はしゃべらなくてもいいんだよ。そんなことしなくたって」
田島は上を見てうまい言葉を考えた。
笑って口を開いた。
「うまい飯つくってやるから」
辻野、ちょっと心がちくりとしたが、うんうんと二回うなずいた。

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