最終日(昼)46 コウタロー&アプロー またどかん
鍋の国は、祭りの中にある。
「だからなんで戦勝記念が眼鏡祭なんだ」
「細かいこと言わない言わない。ほらいこ、コウタロー」
そんな会話も、アプローにとっては嬉しかった。
アプローにとってコウタローはひそかな自慢の種である。今まで愛されたことのない少女が、初めて手に入れた愛になるかもしれないものが、コウタローだった。
体格が地上人くさくて、ひどく力が強くて、時々恐い目をする時があるが、そういうことはとりあえず軽口叩いてごまかすことにしている。
一方光太郎にとってアプローは、今のところの、唯一の生きている理由のようなものであった。自分を面倒見る彼女があまりにも哀れなので、嘘をついてでも生きることにしたのだった。
それぞれの思いを持つ二人が思いを秘めて歩いている。
光太郎は顔をあげた。懐かしい匂いだった。
「焼き蕎麦なんかあるのか」
「ヤキソバ?」
「昔あったんだよ。たぶんアプローの生まれる前の話だ」
「コウタロー、そこまでおじさんじゃないでしょ」
光太郎は少し笑った。
「まあな」
昔、アルバイトをしていた頃を思い出した。今すぐ戻りたいくらいの、そんな昔のことだった。
「よし。アプローにうまいのを食べさせてやるよ」
光太郎は店に乱入。おっちゃん手伝わせてよというと、威勢良く店を手伝い始めた。