BALLSボーナス ヤガミ3/6

 ヤガミは眼鏡を取ると下を見て、加藤祭の幸せを願った。
どんなに未来を知っていても、願うことをやめることだけは出来ない。

眼鏡をかけて、いつも通り、ひどくひねくれた、冷めた男になる。
未来永劫に何かと戦う淡い絶望を胸に抱えて、それがなければ、まるで自分ではないように。

「未練たらたらね」
あー。先輩に会いたいにゃぁと思いながら猫のぬいぐるみと遊ぶニーギが、そう言った。
「そんなことはない」
ヤガミはその顔を車窓に映した。 赤い月と荒涼たる高原が広がっている。

「未練などしてやるものか。絶対に」
ヤガミは視線を動かして遠いどこかに向かって言った。そしてただ心の中で、俺は星になるのだと思った。

「私は先輩のためだからそりゃもう全然オッケーなんだけどぉ?」
青の厚志の作った猫のぬいぐるみは出来がいい。思わず抱きしめてしまいそうな一品であった。
両前脚を後ろから持って、猫のぬいぐるみを躍らせるニーギ。
「えいえい、ヤガミくんは、誰のためにここにいるんですか?」
ぬいぐるみはそう言った。顔を背けるヤガミ。
「やめてくれ。気持ち悪い」
立ち上がって通路を歩き始めるヤガミ。
「どこいくの?」
顔を出して猫のぬいぐるみとニーギが言った。
振り返らずに口を開くヤガミ。
「トイレだ」
頬を膨らませた後、席に戻ってぬいぐるみを抱きしめるニーギ。
「もう、嘘ばっかり。戦闘用義体がオシッコなんて出来るかっての」

 ヤガミは一人通路を歩く。
ヤガミは優しくされるのが好きではなかった。許されるのも、また好きではなかった。
だからニーギも嫌いだった。なんでも許し、優しく微笑むから嫌いだった。彼が、それを許す相手は一人だけであり、それは今頃拗ねたり部屋を家捜ししたり一升瓶抱いて寝ていたりしているはずであった。それ以外の誰にも許されようとは思っていない。またその相手に積極的に許してもらおうという気も、さらさらなかった。

俺は自分の好きでやっているのだ。 ヤガミはそう思う。だから、誰に許しを乞おうとも思わないと。
相手が許してやるという態度だと腹が立つのがヤガミだった。1名の例外は、許されてやっても単に腹が立たないというだけで、決してヤガミが許しを得たいわけではないのである。どこまで行っても許されようとは、思ってない。

責任はとる。何をやるにしても俺の決定だ。ヤガミは自分を鼻で笑った。
間違いもするし、痛い目にもあう。部下も大勢死んだ。これからもっと死ぬだろう。

だが、だからどうしたというんだ。俺は俺以上じゃない。努力はしてる。倒れるまで。だがそれだけの話だ。俺は俺が俺である間、俺の役割をやるしかないのだ。

ヤガミはそう思って、もう一度ニーギの隣の席に戻ることにした。逃げたと思われるのが癪だった。

その後で自分の心が傷ついているなと思ったが、全部無視した。

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