ガンパレードオーケストラ 青の章(8)

 古関里美は夢を見ていた。
鼠の騎士を助けに行く夢だった。

 折しも場所は断崖絶壁。
谷から下へ落ちて行く鼠の騎士を、古関は風の精霊達の助けで知覚した。瞳を輝かせ、残像を残しながら走る。
叫びながら一千年を越える年輪を数える柿の木を百年寝かせ、一番堅い芯だけを削り出して作られた巨大な棍棒、父の魂を片手で振り下ろし、山肌を痛打させて雪崩を発生させた。

叫びながら、雪崩に飛ぶ。
盛大な雪煙をあげながら雪崩の上に乗り、右足が雪にうずもれる前に左足を踏み出すという出鱈目な方法で雪崩の力を借りて斜面を降りた。

 速度が時速100kmを超える。

 最後の100mは、飛んだ。跳躍した。2m近くの背に纏わり付く優雅なドレスが、冗談のようにばたばたと揺れた。
振り上げ、岩を叩いて方向転換。獣のような声をあげてサンダルのまま重い蹴りで谷底へ向かって跳んだ。

勢い余って跳び過ぎる。壁にぶつかる。

否っ。

崖を蹴り上げ加速しながら下方向へ三角飛び。まっすぐ落ちるよりも遥かに早い速度で下へ飛んでいく。

風圧で唇がめくれ、歯を見せる里美。

「貴方が私が想う様に、私も貴方を想います」
歯の合間からそう声がもれた。

ほうぁ!と叫んで最後の一撃を決めた。父の魂を棄て、最後の大跳躍。手を伸ばした。
鼠の騎士も手を伸ばした。

互いの手が触れる。

そこで頭を、叩かれた。

/*/

「古関ぃ、よう寝るなあ。わははは」
丸めた教科書で後頭部を叩かれ、歯を見せて寝ていた里美は、後頭部を叩かれたついでに机に額を打ち付けた。

上がる複数の笑い声。時刻は昼過ぎ、午後の授業、心地よい風が吹いていて、中々にして昼寝日和であった。

古関は顔を真っ赤にして恥じ入った。髪につけたリボンが、ゆれる。

「す、スミマセン……」
小さくなって消え入りそうな声で里美は言うが、その大きな身体は、中々にして隠せない。
その様が面白く、里美を古くから知る者も、思わず笑ってしまった。

「最近眠りすぎだぞ。古関。前はそんなこと全然なかったのに」
男先生がそう言うと、里美は目を伏せて机の下に手をやり、じっとした。
怒られている時の、それが里美の癖であった。

「成長期だから仕方ないよ」
 フォローを入れたのは山本えりすである。
里美は、顔を真っ赤にして、これ以上大きくなりたくないと、大声で言った。
喉からの風でえりすのプラチナの前髪が、ゆれた。

 びっくりするえりす。

周囲が、すげえと爆笑に同時に包まれた。
里美は涙目。おそるおそる石塚を見る。石塚は笑いをこらえて教科書を見ていた。

ああ、なんてお優しいのかしら。

そう思った後で、里美は落ち込む。

古関里美は、巨大であったが乙女であった。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 12

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた 驚いた
面白い 面白い
ナイス ナイス
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
かわいい かわいい