BALLSボーナス ヤガミ2/6

 ニーギ・極楽台風は鼻歌を歌いながらいやらしく指を屈伸していた。
少し伸びた髪を振り、笑って共にいる男に声をかける。

「おじいちゃん、大丈夫?」
「黙れ、お前よりは随分若い」

男はそう言う。 声だけは元気で、本体はというと、彫像のように微動だにしなかった。
義体も長いと人間だった頃の癖を忘れるのかなあと微笑むニーギ。

「あんたのほうがいくつか年上でしょ?」
「俺のほうが長く寝ている」

言い返した男は、動かぬ彫像から、不意に脱出した。古いイエロージャケットを着て、その男は自らの目に眼鏡をかけた。
ボディは特別だったが化粧を落とし、疲れたように座るその姿には鼻が大きい以外では特別なところは何もない。ただのスマートな義体に見えた。

 手にしてハンマーを起こすのは欧州陥落前に大量に持ち込まれて売られていた白式自動拳銃だった。日本人では少々大きいと言われていたこの銃だったが、その男はもう250年近く使っている。生産開始は1927年。あわせて見れば300年超のものだった。

 何の芸もない、一体何丁作られたかも分からない拳銃だったが、その男は戦いに何の思い入れもないが故に愛用していた。

 元が軍用に作られていたもののためグリップに輪がついている。戦場でなくさないよう、つり紐を通すためのものだった。もっとも彼の銃には、つり紐はつけられていない。かわりに小さな、イルカのストラップが下げられている。かつて彼に眼鏡をくれた人が作っていた、小さな人形だった。

 磨耗する部品については何度も製造しなおし、状態は最新に更新されている。メイドインBALLS。銃の部品は火星の鉄で作られている。

 息を吐く。

まるで息をしている人間のよう。
彼は立ち上がって両手で銃を構えると輪が胸に銃を引き寄せた。

「いこう」
「そうね。どうでもいいけど、愛想悪くなったんじゃない?」伸びをして、軽口を言うニーギ。
「違うな。怖いだけだ」
「ヤガミ……」
ニーギの顔がはじめて曇った。
「安心しろ。戦うのじゃない」
ヤガミと呼ばれたその男は銃を下ろし、まっすぐ構えると腰を落として走り始めた。
走る速度がどんどん上がり始める。上体は揺れない。目線は間段なく周囲を見て、的確な遮蔽物の影に入りながら前進する。第6世代記念病院の前に立つ建物へ。ニーギはカバーしながらそれに続いた。

ちゃんと特殊部隊らしく動けてるじゃんとニーギは思ったが、無駄口はもう叩かなかった。
クライシスエリアだった。

 自らの身体に埋め込まれた機能の一つセンサーを無力化する電磁波を発しながら、ヤガミは走る。対人センサーを超え、曲がり角をまがり、息もつかず、虚を突いて角から現れたヤガミは風のように走りよって扉の前の二人を二発で射殺した。眉間を打ち抜いていた。
正規の軍人と違って二発づつ撃つことはしない。練度が、違った。

直後にニーギが輝く拳で扉を爆破した。入れ替わるように流れるようにヤガミ侵入。
驚いて起き上がる狙撃手を射殺。
 窓から外を見る。

車椅子の少年を押すピンク髪の女の子。違う、見たのはその先だった。平凡そうな車。

 ヤガミは窓から飛び降りる。6階だった。
着地。盛大な音がしたが舞踏子のそれと同系の優秀な義体は衝撃をうまく殺した。

 走る。この時代にまともに走るガソリン車は少ない。よほどのことがなければ。
ヤガミはリミッターを外した。人間らしくない動きで速度がさらにあがる。時速75km。
この速度では上下揺動が激しすぎて精密照準は不可能。

ヤガミは役に立たない銃を降ろして走る。

/*/

「いつ歩けるようになるかなぁ」
加藤祭は、今すぐ狩谷夏樹の首筋にむしゃぶりつきたい気分で、信号を待ちながら言った。
「まだまだ掛かる」
狩谷は、冷静だった。たしかにバスケットはもう一度したいが、今は、新生5121部隊の新人のことで頭が一杯だった。中村君は優秀だが、優しいところがあるからなと考えていた。

車のつんざくブレーキ音を聞いたのはその時である。

顔をあげる二人。

車は二人の前を通過するその前に、交通事故を起こしていた。
黄色いジャンパーの男が横から体当たりしていたのである。
車はひどくひしゃげていたが、男は顔をしかめただけった。

身を乗り出し、窓を銃床で割るヤガミ。無造作に銃を撃った。
遠くから駆け寄ろうとして慌てて顔を隠してしゃがんだニーギがバカとつぶやいた。

最後の一人は反対側から外に飛び出したところを射殺された。
全員が銃を持っていた。硝煙のついた手で髪に触れるのが嫌で首を振るヤガミ。芝村の次は会津に寄生か。奴らいよいよ暇なようだな。

 振り返って二人の安全を確認したかったが、ヤガミにはそれも許されなかった。
だからせめて、背筋を伸ばした。自分は元気だと、言うように。

「い、いつかの郵便屋?」
 背から祭の声がした。ヤガミは長い3秒を考えた後、声色を変更して口を開く。
「ああ、そっちは廃業したんです。今はそう、火星独立軍のフィクサーかな。ただの殺し屋だが、それだけではないと思いたい」
 それだけを言うとヤガミは自分の顔を隠しながら叱責の声をあげるニーギと合流、撤収する。

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