ガンパレードオーケストラ 青の章(6)

 大塚と武田は光る海を前にキャッチボールをやる。
島の野球部は、この二人だけであり、当然ながら二人とも、試合などしたこともない。

「試合したいな」大塚はボールを投げながら言った。

「そうか」笑って武田はボールを受けた。武田はキャッチャーがやりたい。
ボールを投げ返し、武田は海を見て言った。
「お前は勇気があるな」

大塚は何も言わず武田を見た。武田は3秒迷った後、恥ずかしそうに口を開いた。
「お前の球は受けられるんだが、他、あんまりやったことないからな」
「俺もさ」大塚は笑って球を投げた。いい音を立てて武田はボールを受けた。

そうしてしばらく、黙ってボールを投げあった。

「野球やるため、本土にいくのもつらいよなあ」
ぽつりと大塚は言った。大塚の家は、そう豊かと言うわけでもない。
「何言ってるんだ。本土じゃとっくに禁止だよ。プロ野球に続いて全国高校大会も中止だ」
武田は、そうはげますように言った。「本土にいくまでもない」

「そうか。じゃあ、今、野球やってるのは俺たちだけかもな」大塚は笑った。
「ああ。だから俺たちだけでもやってやろうや」武田は笑って球を投げ返した。

 大塚は空を見上げる。日は傾いて夕日になって、海は鮮やかに茜色だった。寄せては返す波の音が、やけにはっきりと聞こえた。

 いつか見た白い線が見えたなら。

大塚は思った。

見えたなら、どうする? 空飛びたいと思うだろうか。それとも野球がしたいと祈るだろうか。

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 大塚と武田のやり取りを聞きながら、買い物袋を持った田島は、顎をなでた。
まだ熱を発するアスファルト。そこの上から、浜辺を見ていた。

 田島の目元が寂しそうで、一緒に元気良く走っていた辻野は上を見上げてにっこり笑った後、口を開いた。

「田島ぁ、野球がやりたければ、一緒にやればいいよ?」

 田島はかぶりを振った。辻野の癖っ毛をなでて、優しく口を開いた。
「いや、やめておく。俺じゃあ運動力がありすぎて……」
「ありすぎて?」

 田島は笑った。それは長いこと色んな嫌なものから辻野を守ってきた笑顔だった。
「みんなが楽しむのが一番だ。さ、いこう。今日は目玉焼きをのせた、味のれん風やきそばだ」
首を傾げそうになる辻野だが、田島の笑顔に負けて、一緒に大きく手を振って歩き出した。

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