ガンパレードオーケストラ 青の章(5)

 白天は翼のない飛行機である。
とんがったおにぎりの形をしているボディそのものが翼の役割をしている。
沈降速度は異様に速く、石ころを下に投げているようだと言われた。着地は難物も難物で、多くのパイロットが、この機体の操縦となると震え上がった。

 大きさは全長で25mを越える。コクピットは埋め込み式で、天井の小さな窓だけが、そこに人がいることを教えさせた。

 並べられた白天は戦闘機ながら獰猛さはまるでなく、純白の耐熱塗料のためか、とても優美に見えた。本機の綽名が”はくちょう”なのは、誰もが機体を見た瞬間に分った。

幼い日、大塚浩二が見たものは、天を飛ぶ”はくちょう”の姿だった。

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 夏の空に、それは白い線を引いていた。

「浩二。おい、浩二!」

釣竿と魚籠を持った大塚浩二は馬鹿のように口を開いて上を見て、入道雲の前を飛んでいく機体を見た。3機で並んで飛ぶそれは見事な絵筆のように、飛行機雲を描いていた。

従妹と従兄に腕をつかまれるまで、ずっと見ていた。

それが人類が生み出した最大最速の戦闘機で、浩二が見た光景がその戦闘機のラストフライトであることは、随分後になって知った。

ただ当時の浩二はとても幼くて、家に帰って最初にやったことは絵日記に入道雲の前を飛ぶ”はくちょう”を描くことだけだった。思い出を消したくない残しておきたいと、そう願った。

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4年後。

 大塚浩二は”はくちょう”が島に来ると聞いて”たんぽぽ”の通り道を走って駆け上がっていた。
退役した機体から状態のいい6機が選ばれて、改修の後、”たんぽぽ”の子機に使われる予定だった。

洞窟に見える横穴から、格納庫へ。
大塚浩二は、駆ける駆ける。階段をかけあがり、吊り下げられた可動通路を走る。

「田上先生」
見覚えのある背中を見て大塚はそう言った。黄色いジャンパーを着た男達が、最後の仕上げを開始していた。

「大塚君か。額の怪我はもう大丈夫かな」
振り向かずに言う田上。その傍らには、田上先生が連れてきた子供か、大きな犬と、緑色の髪の女が折り重なるように眠っていた。

「白天を見せてください」
田上はにっこり笑った。足を二度踏み鳴らして言った。
「これが白天だよ」

大塚は飛び上がった。いつのまにか、白天の上に乗っていた。
想像よりはるかに巨大な、それは機体だった。

 機首から描かれた幾千万の文様が淡く輝いている。
蛇腹のように並んだ側面の小さな動翼たちが一斉に開き、向きを変えた。

”MEIDEA”

田上は最後の一筆として機体の上面、額の位置に筆で流麗な筆致でそう文字を書いた。
それこそはその機体の真の名前であった。

真の名を与えられ、大塚が震えるほどの威厳を白天は発し始めた。
天空を最速で駆ける翼なき飛行機、白天。

白天は整備用ディスプレイからエアホースとハーネスが正常に接続されていないことを表示、かれんとパイロットを載せよと要求した。

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