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zoom RSS リターントゥ神々の宴(6)

<<   作成日時 : 2006/08/29 03:10   >>

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 結局30分ほどの後、晋太郎は弟の手を引いて帰りはじめた。
弟におやつと夕飯を作らないといけないから、というのが帰ろうとする彼を惜しむ女生徒と女教師に微笑んで言った晋太郎の理由である。

 ゆっくり、かみ締めるように歩く。桜の花はもうなかったが、かわりに暖かな春の風が吹いていた。

手を繋いだ光太郎が横の兄を見上げた。
「兄ちゃん、どこにいくの?」
「おじいちゃんの家だよ。今日は調子がいいから、掃除してあげないとね」
「おじいちゃんってだれ?」
「小さいとき、一緒に遊んでもらったろう?」
渋い顔の晋太郎。自分もいつか忘れられるのかなと思った。
真似をして渋い顔をする光太郎。晋太郎は、笑って弟の頭に手をおいた。
「お父さんのお父さんがおじいちゃんだよ」
「知ってる、お母さんのお父さんもおじいちゃんでしょ」
「そうそう。えらいえらい」
兄に褒められ、嬉しそうに笑う光太郎。
褒められると無闇に走りたくなるのが光太郎だ。この時もそうだった。
その、走りたくてうずうずしている弟、光太郎の気持ちを繋いだ手を通じて感じながら晋太郎は、それでもゆっくり歩いた。あまり早く歩くと咳き込みそうだったし、それに、可愛い弟と歩く機会は、彼にはもうそんなに残ってはいなかった。

僕が死んでも、コウにはなるべく覚えてて欲しいなあとは、晋太郎の思いである。
晋太郎が微笑むと、光太郎は顔中を笑顔にして笑った。

晋太郎は嬉しくなる。出来れば本気の兄弟喧嘩をしたかったとか、一緒に野球したいとかもあったが、ただ歩くだけというのもいいなと、そう思った。彼は死病に侵されていた。

/*/

 祖父の家は閑静な住宅街で、一つぽつんと、古びた家になっていた。
光太郎が生垣からむこうを見ようと飛び跳ねるのをなだめつつ、晋太郎は鎧戸が開いて縁側に人がいるのに気付いてあわてて中庭に廻った。縁側にいた人物の片方は、自分が去年まで着ていたジャージを着ていた。

 玖珂晋太郎と光太郎の祖父、玖珂英太郎は縁側で、物言わぬ月子と共に並んで緑茶をすすっていた。

「おじいちゃん」
晋太郎は実に2年ぶりに姿を見せた祖父に、驚きを隠せないでいた。
「おお。来たな。晋太郎、光太郎」
皺深い顔を笑わせて笑顔になる英太郎。魔術師という家業はなりをひそめ、今はただ、人のよさそうな老人であった。

「光太郎」
再会の笑顔も途中で弟がいつの間にか隣にいなくて、周囲を見る晋太郎。
弟は軒の影に隠れて月子と英太郎を伺っていた。

「あれ、おじいちゃん?」
「そうだよ。ほら隠れてないで、でておいで」
「あの娘は?」つまんなそうに顔をしかめた光太郎。この人物、学校では暴れん坊だが家の中では人見知りする。内弁慶の逆であった。
「おお、この娘か」
祖父は笑った。

「この娘は月子だ。お前達の嫁にと思ってな」
ずっこける晋太郎。月子は晋太郎より小さくて、晋太郎には嫁とかそういう感じが沸かなかった。月子は光太郎を見た後、興味なさそうにお茶をすすった。

「冗談だ。晋太郎、お前は素直ないい子に育ったな」
笑ったままお茶を飲む英太郎。
「兄ちゃん、よめってなに?」光太郎が頼るのは兄である。
「おじいちゃん、またお父さんと大喧嘩になりますよ。光太郎、よめってのはね。えーと、そう。光太郎の兄弟みたいなもんだよ」
 晋太郎は光太郎に意訳して話を伝えた。光太郎、これはこれで、知識欲は旺盛で、兄に対しては分からないことがなくなるまで、聞いた。いつもなら笑顔でいつまでも付き合う晋太郎だったが、今回事態が事態なので、こうなった。

「俺、兄ちゃんもういる」光太郎の心配そうな顔。
「今度は光太郎がお兄ちゃんになるんだよ」晋太郎は優しく言った。
自分が兄ちゃんになる。光太郎の顔はそれで輝いた。まったくこの頃の光太郎にはそれは夢のような話で、晋太郎は思わず笑ってしまった。

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