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zoom RSS リターントゥ神々の宴(3)

<<   作成日時 : 2006/08/24 00:07   >>

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ふみこの言葉を無視し、こちらだと言う英太郎。見つけたそれは小さな聖堂だった。

 十字を掲げていたが、それは、それとは縁もゆかりもない邪教の聖堂であった。方角からしてそれは立てられた場所が逆であり、墓は墓でなく、小さき家のようであった。

 聖堂に入る英太郎とふみこ。

 燃えて明るく照らされるそこは、食料倉庫であった。
ただの食肉のように置かれた、女、男、子供。喉から鼻にかけて巨大な鉤で引っ掛け上げられて風に揺れ、腐りやすい内臓は一番に食べられたか、ぽっかりと穴を開けていた。

「吸血鬼というより、食屍鬼ね」
顔をしかめることもなく感想を述べるふみこ。
「屍を食べているわけではないよ」
つぶやく英太郎。
ふみこが説明を求めるように隣を行く老人を見ると、英太郎は口を開いた。
「彼らは食肉に血抜きをしない。それゆえか血が固まっては、まずいという。だから生きながら食べるのが吸血鬼だ。おそらくは食事中だったな」
「もう少し早くこれたらよかったわね」
ふみこはそう言って、几帳面に皿に盛られたしゃべりつくされた胎児の骨を見た。
ベルリンのソ連軍よりひどい奴らもいるわねとつぶやき、傍で取り出された子供の最後を見ながら絶命したであろう母親の戒めを、解いてやった。

「貴方がこの事件を引き受けた理由がわかったわ」
ふみこは静かに言う。
英太郎は奥へ歩きながら、口を開いた。
「ブルーブラッド。元は高貴な血、貴族や王族のことだ。血は税金のことで、言わば王族が吸血鬼というのは庶民の諧謔でもある」
「その諧謔を魔術的に”実存”させた人間がいたのね」
ふみこは、表情を殺そうとして、失敗した。腹を立てたか、口元を引き締め、長靴で椅子を蹴った。眼鏡の合間から鋭利すぎる目が見えた。
英太郎は心を殺したまま、淡々と言った。
「食物連鎖の頂点として人間を食う生き物がいたとすれば、それは人間以上になるという、そういう魔術だ。食こそは魔術の源流の一つだよ」
「精霊回路より典雅ではないわね」
「神は上を、魔術とは超常を、単に示すだけの言葉だ。体術も優れていて、そ知らぬ者が見れば魔術になる……キリスト前に家畜の品種改良は行われていた。遺伝というシステムが、おぼろげながら分かっていたわけだ」
「人の品種改良ね……どおりで綺麗で強いわけだわ。格好からして、ロシア革命で中国に逃げ込んできた口かしら」
吐き棄てるように言うふみこ。
英太郎はおそらくはそうだろうよと言った後、脚をとめ、床を軽く踏み抜いた。
床材が落ち、忽然と現れる地下への道。
片方の眉をあげるふみこ。
「探知の魔法より優秀ね」
「足音に違いがあっただけさ」
英太郎はそう言うと、燃えさしを一つ拾った。

ふみこは、指先に小さな鬼火を灯した。軽く飛ばし、後ろからついていく。
地下にはこの村が出来てからずっと貯められてきたか、人骨が几帳面に分類されて並べられており、骨に残った歯型から、それが食料だったことが分かった。

 子供の泣き声。

声に誘われ、たどりついた無数の頭蓋骨に囲まれたそこに、泣いている子があった。女の子だった。眉がいささか太い以外は、完璧ともいえる姿かたちをしていた。

まだ小さい。下の孫よりは小さいか。英太郎が思う傍で足は転がっていた人の小指を踏み潰す。この子をあやすためか、人の小指を与えられ、舐めていたが、吐き出したようだった。

「食料というか、家畜、というわけではなさそうね」
ふみこは言った。泣く子が着ている服が、上等すぎた。ため息一つ。神霊庁の依頼は全滅だった。

顔をしかめるふみこ。耳を塞ぎたくなるくらいわんわんと子供は泣いており、それがふみこから、どんどん殺意を奪っていった。

泣き声で殺す気がうせるのは、私が女のせいかしら。
小さく独逸語でつぶやくふみこの前で、英太郎が子供を抱き上げていた。

「女のせいじゃないと分かってよかったわ」ふみこは言った。
「なんのことだか」殺していた感情を蘇らせ、微笑む英太郎。
「いいの。そろそろ軍も攻撃をはじめるわ。いきましょう」
照れたか、早足で歩き出すふみこ。
「殺せとは言わんのだな」
英太郎はそう言ってふみこの後を追うと、一人口を開いた。

「選別と生き残りもまた、魔術の一つか」

 英太郎は泣きじゃくる子を抱きながら、その顔を曇らせた。

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