ガンパレードオーケストラ 青の章(4)

「暇だ」
 嶋丈晴は、短くそう言うと、目の前に積まれた山のような書類を無視して外に出た。
護衛に立とうという人物を手を伸ばして静止し、一人歩く。
同年代であっても天才と呼ばれる彼に気軽に声をかけるものはいない。彼の意向を無視して動く者も、またいなかった。

彼は、一人である。

先年できたばかりの木更津の新交通システムの駅を見上げ、今だ軍事施設以外は何もない場所を歩いた。海が見える場所へ。

遠くに見えるのは倉庫と工場だけで、風の音も寂しそうであった。
ポケットに手をつっこみ、特別明るく作られている眼鏡のつるを指で挟んで一度持ち上げて嶋丈晴は、無性に叫びたくなる気持ちを抑えて、顔を上にあげた。

カモメが、飛んでいる。

滑空しているその姿を見て、彼はテンダーフォックスの翼形を変えるべきだなと考えた。
自然というものは美しく、嶋丈晴にいつも貴重な示唆を与えてくれる。

 いつもなら心安らぎ微笑み、心躍る気持ちになるところだったが、今日の嶋は、そういう気分にはなれなかった。

彼は軍人だった。彼は学兵ですらなかった。れっきとした本物の軍人だった。
階級は少佐で、勲章だけならいくつも持っていた。
だが彼は銃を持ったことがない軍人だった。戦場に出ない軍人でもあった。軍服も、実際のところ着たことはない。彼はいつもジャージを着て仕事をしていた。

 彼は技術者だった。彼は発明家であり、工学博士だった。彼はウォードレスの設計者であり、フォックスの父と、そう呼ばれていた。
東日本のウォードレス歩兵の主力装備であるアーリィフォックスは、彼の作である。
国家も軍も彼の才能が彼が戦場で使い潰されることを畏れ、だから後方に下げていた。

嶋丈晴は運動も荒事も苦手であったから、そのことを喜んでいたが、同時に気鬱でもあった。同じくらいの年齢の若者が毎日死んでいくということと、彼が安全な場所にいるということは、しばしば彼を苦しめた。どんな人間も彼を責めることはしないだろう。だが彼だけは、彼自身を非難した。

ため息をつく嶋丈晴。

 この頃、青森戦のレポートが続々と届き、嶋は彼が作ったウォードレスの戦闘情報を、小隊長や中隊長クラスのレポートから豊富に得ていた。
これらの情報を分析してウォードレスの改良を行うのである。

特に繰り返し読んだレポート、谷口……谷口……、あれ?あんなに一生懸命読んだのに名前を思いだせない。とにかくその人物が寄越したレポートは詳細を極めており、嶋はそのレポートを読んで、結構なショックを受けていた。
そこに書かれていたのは中学を出ていくばくもない少女が銃を暴発させて手指を吹っ飛ばした事例であり、アーリィフォックスが運用方法として想定していない技量未達の兵士が足を止めて撃ち合うと言う事例であり、嘔吐物をヘルメット内にぶちまけて被弾もせずに戦闘不能になる兵士のことだった。

嶋は頭を掻く。そんな使い方はやめてくれと青森まで言って文句がいいたかった。
そんな部隊が、解散される前の青森で一番の活躍をしたという。だったら他の部隊は、どれだけ悲惨なことになっているんだと、彼はそれで、気分が良くなかった。
なんで子供に銃を持たせる、なぜ軽量ウォードレスで足をとめる。気鬱は激しく、彼はまたため息をつく。分ってる。報告してきた人物は有能なんだろう。降格覚悟で報告書を送ってきたんだろう。恐らくは部下を思ってだ。尊敬に値する。ああ。尊敬しているとも、糞ッたれ。

彼は地面を蹴ると、そうして、軍をやめてやるとつぶやいた。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 12

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた 驚いた
面白い 面白い
ナイス ナイス
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
かわいい かわいい